岡市 尚士

岡市 尚士

2020.01.14

桜庭和志vsホイス・グレイシー戦の直後、高田道場に行った話 〜いつだったかウチに無料体験に来たけど入会しなかった格闘技経験者の若者って2000年当時の俺そのものじゃないか〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第88話」

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このシリーズが始まった当初から、コレいつか書いてやろうと、ずーっと思ってた

タイトルまんま「高田道場」に行った話です。

まずはじめに。

もしかしたら混同する方が出てくる可能性がありますので、念のため注釈を。

俺がクラスを持たせてもらってるのが「高田馬場道場」です。トイカツ道場系列の一店舗なんですけど、JR/東京メトロ高田馬場駅の近くにあるから地名からとって「高田馬場道場」主宰はトイカツこと戸井田カツヤ社長

そして今回の主となる舞台が「高田道場」

主宰は高田延彦

「青春のエスペランサー」「アイ・アム・プロレスラー」なんて誰も呼ばなくなった今は、世間的にいうと「お前、男の中の男だ!」「男の中の男、出てこいやー!」などのフレーズだったり、NHK/eテレ「趣味の園芸」レギュラー、RIZINの解説者として、知られてるんでしょうか。

そんな「高田道場」と「高田馬場道場」

空目しそうになりません?今回の話、ウチの「高田馬場道場」も少し出てくるんですけど。

いや、そんなの間違えるヤツなんかいるわけねーだろ。とお思いでしょうがバッチリなのはプロレス者のオッサンだけです。

なんてったって「高田道場」が世間の注目を浴びた桜庭和志(当時は高田道場に所属)vsホイスグレイシー戦から、もう20年が経とうとしているんですよ。

そんな20年前の2000年5月、伝説の試合が行われた直後、

桜庭和志フィーバー吹き荒れる武蔵小山に住んでいた高校時代からのバンド仲間キヨシに連れられて、上京したばかりの俺は「高田道場」の無料体験会に行きました。

(山手線でタバコ吸ったりしてた上京当時の詳細は、前記事のこちらから)

この頃ですね。

ミッシェルガンエレファント「ワールド・カサノバ・スネイク・ツアー」ZeppTokyo公演にて。左が高田道場にアテンドしてくれたキヨシ。右端で見切れてるのが写真をたくさん提供してくれましたタカノリ(次回から出てきます)

-目次-

・「高田馬場道場」に無料体験クラスにきた経験者の彼は、なぜ入会しなかったのか

・まさか総合格闘技が世間のトレンド入りする時代が訪れるなんて

・桜庭和志vsホイス・グレイシー戦効果で高田道場に集まったミーハーなファン達

・そもそも初心者が、腕十字とか三角絞めとか見た目が地味な技にロマンを感じるのか?

・「へー、プロレス好きなんですね」の見下したような態度にカチンときた

・ガチスパーで未経験者が相手ならファンタジックな技はかかるのか

・学生時代にガチ競技をやらされていた経験者ほどエンジョイスポーツの風潮に猜疑的である

・″ぶっつけ本番でやる体育祭″みたいな。一般層からすれば格闘技ジムに行くこと自体がそのくらいのイベントなのかもしれません

-「高田馬場道場」に無料体験クラスにきた経験者の彼は、なぜ入会しなかったのか –

令和2年現在、俺がクラスを持たせてもらってる高田馬場道場は「無料体験」も兼ねた「ブラジリアン柔術・超初心者クラス」が毎日あります。まあ入会したり、しなかったりなんですけど。

で数年前のこの日も来られたんです。

無料体験の男性2人組が

そのうち片方Aさんが柔術経験者で、おおお!これは入会の期待が持てるなと。

道着の着こなしもバッチリだし、マット運動も「肩抜き前転」「エビ」とか比較的簡単なのだけじゃなく「横歩き」「横回り」とか初心者だとちょい難しいのも涼しい顔で難なくこなしてたので

おおお!すげー!完璧じゃないですか!ってちょっとヨイショして(笑)

一方2人組のもうひとりBさんは全くの初心者で、エビだけでも相当ヒーヒー言ってて

なので初心者Bさんにフォーカスの比重を多めにし、その後のテクニックはBさんでもすぐに達成できそうな技をふたつ

そして経験者Aさんでもちょい難しそうな技をひとつ、行ったわけなんですけど

さあ、いよいよ入会!となるには初心者Bさんにいい感じでアフターフォローする必要があります。経験者Aさんは入るでしょうから。

2人組の場合、ひとりがイヤ〜となると、もう一人もつられてイヤ〜となります。(これはナンパも一緒です笑)

初心者Bさんに、程よい距離感を保ちつつ、じわじわ迫りました。案外まんざらでもない様子。

あ、なんか入りそう。

しかし、ここでまさかの横ヤリが

経験者Aさん「すいません、今日は保留にします」

ええええええ!!!!!

保留にする理由をもろもろ述べてましたけど、そんなAさんの顔色を伺った初心者Bさんも

「やっぱり、ごめんなさい。俺もよく考えます」と!

なんてこった。。。2人の入会を逃した・・

落胆する俺と「いやぁ、不思議ですよねぇ。あんなに柔術出来るのに、入会しない意味が全く解らない」と同情してくれる他の会員さんやインストラクター

でも、この時。思い出したんです。

ちょっと待てよと

あの経験者Aさんって、そういえば桜庭vsホイス・グレイシー戦の直後に高田道場に行った俺そのものじゃないか!と

-まさか総合格闘技が世間のトレンド入りする時代が訪れるなんて-

2000年5月

まさかキヨシの口から高田道場の名前が出てくるなんて

たしかにキヨシは高田道場の近所の新聞屋に住んではいましたが、そこまでプロレス者ではありません。テレビでやってたら観るくらいの。わざわざ追いはしない。

でもそんなキヨシが無料体験会の情報をばっちりインプットして、プロレス者の俺に結びつけるなんて。

これは桜庭和志vsホイス・グレイシー戦の影響もあり、総合格闘技が世間のトレンドになりつつあることの現れで。マット界を子供の頃から追ってきたプロレス者としてはめちゃくちゃ喜ばしいことです。

しかも、あの10.9新日vsUインター東京ドーム大会の第一試合タッグマッチで石澤常光の三角絞めで敗れた印象の強い桜庭和志が、ですからね。

思わぬところからのヒーロー誕生ですよ。

-桜庭和志vsホイス・グレイシー戦効果で高田道場に集まったミーハーなファン達-

無料体験会当日、キヨシにアテンドされて高田道場に行くと、何と50人くらいは居たんじゃないでしょうか。ミーハーなファン達が集まっておりました。超絶満員御礼。

そこに登場しました。ホイス・グレイシー戦から凱旋したニューヒーロー桜庭和志!大歓声で道場内のボルテージはMAX!

高田道場の目論みは半分大成功でしょう。今日はただのファン感謝イベントではなく、ホイス戦の興奮が醒めない内に、より多くの新規会員さんを入会させるための企画でしょうから。

ここに居る50人が全員入らなくても半分を入会させることが出来れば、たとえば月謝1万円だとしたら来月から25万円も売上に加算されるわけですからね。

そして始まった桜庭和志先生によるテクニック講座。

たしか下からの腕十字とか、三角絞めとかで

ミーハーな層は、そんな桜庭先生の一挙手一投足に「おおおおおお」と、いちいち驚嘆の声あげるんですけど

それホントに分かって、おおおおって言ってる?

目の前に現れたヒーローをヨイショしてるだけなんじゃねえの?って

俺、正直「つまんねえな・・」って心の中で思っちゃったんですけど、、

– そもそも初心者が腕十字とか三角絞めとか見た目が地味な技にロマンを感じるのか?-

愛好者と初心者のあいだには大きな川が流れております。

川の向こう岸にはそれなりに経験を積まないと渡れない。その大きな川を渡ると風景がガラッと変わります。

川のこっち側に渡れた俺は息子の名前に″三″の字を使うほど三角絞めに魅了されました。だから無料体験とかで腕十字とか三角絞めとかやりがちで。手順やディテールも正しく説明しがちです。

それで20年前の俺は満足するでしょうか。

よっぽどの格闘技マニアじゃない限り、初心者にとって腕十字とか三角絞めの手順やディテールなんて、どうでもいい事なのかもしれません。技自体なら、桜庭先生に紹介されるより遥か昔からプロレスの試合で散々見てるので、″知ってる気″ になってはいましたから。

それらの地味な技にロマンを感じるのは、だいぶ先の話。寝技の壁にぶつかって、正しい手順やディテールに救われて、そこからじゃないですか、ようやく腕十字や三角絞めがキラキラ輝きはじめるのは。

それよりも俺は桜庭先生の″炎のコマ回し″とか、ホイス戦で魅せた″ちんぐり返し″とかの方にロマンを感じていました。

そして、その桜庭先生のテクニック講座のあと「みなさん、自分の好きな技を反復練習していいですよー」ってなりまして。

一緒にきたキヨシは端っこで見学してるだけなので、適当に近くに居た人と組んだんですけど。

周りを見渡すと、どのペアもさっき習った腕十字とか三角とかその他もろもろ地味な技ばっかりやってて

俺はそれが不思議で仕方ありませんでした。

みんな、つまんねえなあって。

-「へー、プロレス好きなんですね」の見下したような態度にカチンときた-

″ファンタジスタ″の異名をもつ桜庭先生に「好きな技やっていい」って言われてるのに、地味な技ばっかりやってて

みんな、なんでファンタジックな技を色々試したくならないんだろう?って。

俺は思いつくまま

サソリ固め、抱え込み式逆エビ固め、STF、ラ・マヒストラル、ロメロスペシャル、コブラツイスト、卍固め、インディアン・デスロックからの鎌固め、、

と色々試していたら

一緒に組んでた人が「へー、プロレス好きなんですね」って、見下したような態度で言ってきて

はぁ?!って

普段、温厚な俺ですがカチンときて

あんた「シューティングを超えたものがプロレスである」っていう

ジャイアント馬場御大の言葉を知らねえのか?!って憤慨してましたら

号令がかかりました。

「はーい、みなさんタイム!じゃあスパーリングやります」

チャンスや

プロレスを侮辱したような態度を取ったアイツに

スパーで制裁を加えるチャンスや

-ガチスパーで未経験者が相手ならファンタジックな技はかかるのか-

思えばスパーリングなんて2年ぶりぐらいなんですよね。

レスリング部を引退してからは一切の運動を絶ってましたし、セブンスターで肺は真っ黒でしょうから、動けるか分かんないですけど

とりあえずさっき組んだ彼に「やりましょう」って声かけて

開始早々、放った両脚タックルは、現役時代に練習でもこんなに上手くキマった事ないよ!ってぐらい鮮やかにテイクダウンが取れて

っていうか相手は格闘技未経験なので当然なんですよ。

問題はそこから

さっき試したファンタジックな技のどれかを極めてやる!

、、と、色々試すも

あれ、、あれ、、

思うようにかからない、、!

そのうち逃げられて、立たれて、またタックルで倒して

また、あれ、、かからない、、!

でも、なんとか一本は取りたい気持ちに身体が勝手に反応して

結局フィニッシュに着地できたのは、ファンタジックな技でもなんでもない

「チキンウイングアームロック」でした。

柔術では「キムラ」の愛称で親しまれる、この技を覚えたのは第18話「サブミッション」でも書きましたが、小学生の頃。

このスパーを見ていた高田道場の関係者の方が近寄ってきて「キミすごいねー!その技どこで覚えたの?もしかして元・柔道部?」って聞かれて

「いえレスリング部でしたけど。この技は小林邦昭vs斎藤彰俊戦で覚えました」って答えたらキョトンとしてましたけど(笑)

そんな調子で他の人達とも3、4本くらいスパーリングをやったんですけど、、やっぱりフィニッシュに着地できるとしたら、どうしてもチキンウイングアームロックになっちゃうんですよね。

そんな寝技における不思議な現象を体感しつつ、無料体験会の全スケジュールが終わり

さあ、いよいよ入会案内!となりまして、ぞろぞろと結構な人数が入会用紙に記入もろもろの手続きを始めました。

俺はすぐ帰るつもりだったんですけど、さっき声をかけられた関係者ほか数名に「キミ、絶対入った方が良いよ!強くなるよ!」って囲まれまして

最初から入会する気なんてないんですけど。

そこは、ちょっと濁して

「すいません、今日は保留にします」と返しましたら

ええええええ!!!!!と一堂

まさか20年後にこれと全く同じようなやり取りを、立場を変えてやるんですから

指導側および愛好者は初心者だった頃の気持ちを絶対忘れてるんですよ(笑)

– 学生時代にガチ競技をやらされていた経験者ほどエンジョイスポーツの風潮に猜疑的である-

いくら高田道場関係者の方々に褒められたからといって、また格闘技やろうなんて気持ちは1ミリも芽生えませんでしたね。

そりゃそうですよ。

あの地獄のレスリング部を経験した身からすると(ちょうどこのあたりからここらへんまでを続けて読んでいただければ、その苦しみが伝わると思います)

いくらちょっと流行ってきたからって格闘技はミーハーな気持ちで出来るものではない、ということを死ぬほど知っていますから。

でも、それって裏を返せばスポーツとして楽しむという事を死ぬほど知らないということでもあるんですけど。

実は格闘技は″やりよう″によっては楽しいんです。

ただその「楽しむ」っていうのが格闘技の一番難しいところで。特に寝技。

愛好者と初心者のあいだを流れる大きな川に入水してみて

川の流れる速さ、強さ、水温、、

感じ方は人それぞれ

自分に合った加減や塩梅で進まないと途中で川を渡るのが嫌になって、また引き返しちゃいますから。

これでね「あれ?ちょっと泳げてるぞ?」ぐらいまでなれれば

あとは川の流れがどんなに強かろうが、冷たかろうが、向こう岸まで勝手に辿り着きますから。SNS等でエンジョイ格闘技を唱えてる人々はこれに成功した人達でしょう。

でも、俺がいた時代のレスリング部なんていったら、とんでもなく激流も激流(笑)!

溺死しそうになりながら耐えて耐えて、ようやく引退できたのに「また、あの川を渡ろう!」だなんて普通思わないでしょ(笑)

なもんで体験会の最後に、ぞろぞろと入会手続きをしてる人達を見て「おそらく全員、続かないだろうな・・」って気持ちで眺めてました。

だから、この2000年前後から格闘技を始めて、今でもずっと続けてる人達や、学生ガチ競技時代から転向してきてずっとやってる人達って、周りに結構、居るんですけど

よくよく考えたら、どえらい事ですよね。

高田道場で、ぞろぞろと入会手続きした人達はじめ。この時期に全国各地で大量発生したであろう格闘技ジム入会志願者達は、ふるいにかけられて、次々と脱落して、今ではそのほとんどの人達が残ってないんじゃないかなと思うんですけど

今も居る人達って、そのほんの一握りの「生き残り」なわけですからね!スーパーレジェンドですよ。毎週「お疲れっすー」なんて一緒に練習してますけど。とんでもない。

会いに行ける生ける伝説。

じゃあそんな格闘技ジム入会志願者にすらならなかったお前は、入会するつもりも無いのに、なんで高田道場に来たんだよ?!って

思い出づくりです。

– ″思い出づくりで、ぶっつけ本番でやる体育祭″みたいな。一般層からすれば格闘技ジムに行くこと自体がそのくらいのイベントなのかもしれません-

格闘技は、たった一回練習しただけじゃ、意味ねえんだって!

って愛好者の我々は思いますよね?

でも一般層は多分そうじゃないんですよ。

「格闘技ジムに行って練習してみる」ってこと自体がすでにイベントで。学生時代の体育祭みたいなもんですかね。

体育祭の練習を年柄年中やってる人って居ませんよね?

その程度の位置づけだと思いますよ。一般にとっての格闘技ジムって

この高田道場に行った時だって、キヨシが「おがいっつぁんが実際に闘ってるところを見てみたい」って理由で行ったんですから。

バンド仲間達は俺のレスラーとしての一面を見たことがありませんので

じゃあ、キヨシに良いとこも見せたいし

昔取った杵柄で、いっちょう思い出づくりで体育祭に申し込むかぁ!みたいなノリで

冒頭で触れたAさんBさんコンビだって、もしかしたら、こんな感じでウチの高田馬場道場に来た可能性もあります。

しかし、よくこんなんで数年後、格闘技に復帰したな!って自分でもオドロキなんですけど

格闘技にはリストカットみたいな魅力(?)もあると思っていて

そんな数年後の復帰に向け、これからじっくりと精神的にズタボロになって行く様を描写出来ればなと思っております(笑)

最後にひとつ

経験者だったのに入会しなかったAさん!

もし今後の人生で、精神的にズタボロになって、どうしようもなくなる事があったとしたら

事を起こす前に、もう一回、高田馬場道場に

出てこいやー!

つづく

次回「新たなる希望と世界的有名企業に心をボッキリ折られた、そんなバンド結成夜明け前」←読めます。

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この記事を書いた人

岡市 尚士

岡市 尚士

ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。

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