岡市 尚士
ヤサグレのはじまり 〜コーチガリー辞めたいです、その後〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第125話」
「コーチガリー辞めたいです」
(前回「人生は、どっちみち後悔するように出来てる」より)
東京へ戻る新幹線の車内から、みんなに一斉送信した俺の申し入れは
残念ながら受理されませんでした。
まあ当たり前ですよね。
だって今のコーチガリーにはアルバム製作、ツアー、流通、プロモーションと結構なお金がかけられており
増してやアルバム発売したばかりなのに俺が辞めるとなれば、利益回収なんか全然出来ていない内に商品に傷が付くことになるので、事務所としてみれば「ふざけんな!」って感じでしょう。
そんなメンバーや事務所と、早くバンド辞めて田舎に帰りたい俺とで話し合いが行われまして
「とりあえず、一年間はやってみる」という折衷案に着地しました。
あと一年やってみて、それでもやっぱり辞めたいって気持ちが揺るがないのであれば、その時はまた話し合いましょう、と
しかし残念ながら、この2007年9月頃から
脱退ライブの行われる2009年3月まで、俺のコーチガリーに対するモチベーションが戻ることはありませんでした。
だからといって手を抜いたり、お客さん達をガッカリさせるような事はしません。
…なんですけど、以前みたいに「逸脱」もしなくなった。
やる事はしっかりやるけど、それまで築き上げたコーチガリーとしての俺を「演じてる」だけというか
曲も全く作らなくなったし。
観に来てくれていた人達は、気付いていなかったかもしれませんけど、実際はこんな感じだったんです。
◼︎コンプライアンス、コンプライアンスうるせー世の中の風潮に反発心を抱くようになった
とりあえず一年の残留が決まったコーチガリーの現場で利口に振る舞えば振る舞うほどフラストレーションが溜まってくるもんで
おまけに職場のコールセンターでも毎日コンプライアンス、コンプライアンスうるせーもんですから
世間の風潮が品行方正な方向に向かおうとすればするほど
パンツを脱ぎたくなる(笑)
…と言っても、くれぐれも勘違いしないで欲しいのはチャラい大学生がサークルの飲み会とかで脱ぐノリと違って
我々裸族のフルチンはコンプライアンス、コンプライアンスうるせー世の中に対するアンチテーゼで反逆の証なんです(笑)
だから、この二年後くらいに草彅剛さんが公然猥褻の容疑で逮捕されましたけど
我々には分かりましたからね、SMAP業務その他諸々やりきれない剛さんの怒りと悲しみが
裸になって何が悪い!
そんな、しみったれたマインドで日々を過ごしておりますと「見えなくて良いもの」が色々見えてくるものでして
たとえば「世の中がこんなにクソつまんねえ曲だらけなのは、きっと男が、女と子供に忖度している世の中だからだ!」と、思ったんですね。
世に圧倒的にラブソングが多いっていうことは、そういうことなんだろう、と
だから当時は、女性票を取りに行く気持ちが少しでも垣間見えるような作品には、反吐を吐くような感覚を覚えてしまって
その逆で、たとえばYouTubeなどでアップされている「亀有ブラザーズ」とか、明らかに男性票しか狙ってないものには非常に好感が持てましたね。
※亀有ブラザーズ=深夜番組「北野ファンクラブ」の1コーナーで、鬼瓦権蔵の格好をしたビートたけしが、ガダルカナルタカ、つまみ枝豆を横に従えて、有名曲の替え歌を歌っている。内容はポコ◯ンばかり。
◼︎ 世の中がこんなにクソつまんねえ曲だらけなのは、きっと男が、女と子供に忖度しているせいだ!と思った俺が忖度なしで100%本音しか言ってない曲をつくったらどうなるのか?
思ってみれば、これまでの人生。世間に忖度している曲しか作ってこなかったよなぁ、と
自分の色をほのかに残しているっていっても果汁10%未満ジュースみたいなもんで、おまけにコーチガリーではサネさんのキャラも踏まえた上で作っていたので、自分が思ってる以上に、人工甘味料加わりまくり忖度しまくりの状態で仕上がっていたと思われるんですけど
そうじゃなくて、ここで一発
自分の気持ちに100%忠実に、誰にも忖度しないで、曲を作ってみたら、一体どうなるのか?
と、思ったら
5分もしない内に「射精後の妙な冷静さ」という
いわゆる″賢者タイム″を歌った神曲が天から降ってきまして
それに続いて、これまで溜まっていた″膿″がドバドバ溢れ出すかの如く
珠玉の名曲達が次々と天から降ってきて…!
…2時間も経たない内に10曲近く出来たんですよ。
さ、最低だけど、面白い!
こんなコンプライアンスのかけらもない曲達を人前で演奏できたら
最低だけど、最高だろうなぁ
ただ、コーチガリーじゃ絶対、実現不可能なんですよ。
…じゃあ、新しくバンドつくるか?
◼︎どうせいずれ田舎帰るんだから、負けたまま大人しく引き下がるより、腹いせに一発ブン殴ってから帰ってやれ!という感じ
やっちゃいなよ。せっかく一年間、残留期間が設けられてるんだから
このまま日々を消化しただけで田舎帰っちまったら、負けたまま大人しく引き下がんのと同じだろ?
どうせ同じ負けなら
腹いせに一発ブン殴って、飛ぶ鳥″跡を濁して″から、帰りたくない?
それこそ前々回「売れないと悟ってからが本当の勝負、そこからバンドに対する愛情が問われる…。お前はどうなんだ?!」で
富士山をロックバンドの商業的ヒエラルキーに例え
その話の流れで、世の中には「売れない」んじゃなくて「売らない」
富士山なんか登んねえよ、と自分だけの山を築いてるバンドも居るとお伝えした、そんなバンド達に対して
内心「うらやましいな」と遠くから眺めてるだけでしたけど
この ″最低な曲達″ を持ってすれば、俺にもその山が 築けるだろう!と
そしてコーチガリーや人生に迷いが生じて本や映画を漁るようになった中で
特に感銘を受けた岡本太郎/著「自分の中に毒を持て-あなたは“常識人間”を捨てられるか-」に書かれてあった一節
″たとえば絵画展なんかで、気持ち悪い絵が飾ってありそれを見た人が「なんだ?これは」と立ち止まる。
それこそが芸術のあるべき姿なのです。
「いいわね」というのは、つまり「どうでもいい」ことだ ″
、、みたいな(間違ってるかもだけど、こんな感じの文章でした)
それに影響を受けて、バンドに限らず「毒にも薬にもならない創作物なんかクソだ」という思想が芽生えていたので
もし新しいバンドを始めるのであれば「毒」として、突き抜けた存在になってやれ!と
もう「売れたい」とも「好かれたい」とも思わないし
コーチガリーとして世間に歩み寄っていた時とは真逆のことをやる!
ただ、そのためには…
強烈なボーカリストの存在が、絶対的に必要不可欠だと感じました。
とことん毒を撒き散らして、客席をドン引きさせる
たとえば、その筋ではナンバーワンと思えるパンクロッカー/GGアリン(Wikipedia)みたいな
◼︎「毒にも薬にもならない創作物はクソだ」の思想をもとにGGアリンみたいなボーカル探しの日々が始まった
GGアリンみたいな世間から嫌われること上等の過激なパフォーマンスも厭わず
俺が亀有ブラザーズに触発されて作った最低な曲達を歌ってくれて
なおかつ、吉幾三みたいに世の男性達から絶対的支持を受けそうな男臭いキャラクターの持ち主ならば最高なんだけどな(笑)
そんな逸材が、どっかに居ねえかなぁと始まった
めちゃくちゃハードルの高いボーカル探しの日々なんですけど
俺が生きてきた下北沢ギターロック界周りというのは
悲しいくらいに、そういう野蛮な人間が(笑)全然、見当たらないんですね。
やっぱり、よそのハードコア界隈とかに偵察行って、探すしかないのかなぁって
ボーカル探しは難航を極めましたね。
◼︎神の声が聞こえた
いやいやお前がやれよ
「自分が歌がヘタ」っていう理由で、ボーカルを探してるようだけど
そもそも「売れたい」とも「好かれたい」とも思ってない奴が、なんで自分の歌のクオリティーを気にしてんの?
歌や演奏のクオリティーが必要なのは
人に楽しんでもらいたい、自分をよく見せたい、とか思ってる人達だけで
お前がやりたいバンドっていうのはその真逆の価値観で「うまい・ヘタ」の概念が存在しない世界だろ?
だったらお前が歌えば良いじゃん
そんな神のお告げに
なるほど!これで一発解決や!
…と思った瞬間、俺の中に何かが宿ったんですよね。
商業ロック音楽界の下層に埋もれて、消えていった、声なき声の集合体の化身みたいなものが
それこそ昨年ヒットした映画「ジョーカー」で社会的弱者の主人公アーサーが変貌を遂げたみたいに(笑)
そして俺はこの日以降
コーチガリーとしての表の顔と、裏の顔を使い分けながら、しばらく活動することになるのです。
これが
近しい人達や、コーチガリーメンバー以外の
関係者、お客さん達、コーチガリーに近いバンド達、その誰にも一切話すことなく極秘裏でライブ活動をしていた
「わっかめん」のはじまりです。
つづく
次回「わっかめん伝説〜27歳の闇堕ち〜」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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