岡市 尚士
転落のはじまり 〜27歳このままで良いのか?〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第122話」
前年、大晦日
桜庭和志vs秋山成勲戦における「すべるよ事件」騒動により新年早々、物騒な幕開けとなったマット界
そんな1月のマット界と同様
2007年が私にとっても非常に物騒な一年になるなんて
年明けて間もなく始まった二枚目のアルバムレコーディング当初には全く思ってもみませんでした。
ただ、ひとつだけ
今回のレコーディングで、前作「コーチガソー」の時と明らかに違っていたのが
それまで「スターになりたい一心」だったはずの俺を俯瞰で見ている「もうひとりの人格」のようなものが
このレコーディング中、ずっと責めてくるんですね。
◼︎突如現れた新しい人格/客観的な俺が、今までの夢見がちだった俺を責めてくる
「今、録っているアルバムが、地元/岩手県沿岸地区にまで届くような作品に仕上がらなきゃ、人生レベルでマズいぞ」
しかも今回はあの「くるり」を稼ぎ頭とする「Bad News Records」内のレーベルから発売されることが決まり、前作以上の予算がかけられるらしく
だからなおさら地元に届いてくれなきゃ人生レベルでマズい
あの、ここで言う″届く″ってアレですよ。
地元の知り合い達に、このアルバムの想いが伝わって欲しい。とか、そんなミュージシャンが引用しがちな抽象的な話なんかではなく
もっと具体的に
前作コーチガソー発売時に味わった「レミオロメンはよく知ってっけど、、コーチガリー?知らねえなあ。山田町出身?へー、それがどうしたーの?」
みたいな反応だった、その地元民の誰もが知ってるような存在に
コーチガリーは、なれんのか?!って話で
◼︎ちょっとだけ複雑な家庭環境に起因する地元への執着
何で、そんなに地元にこだわるのかっていうと
前記事(2006年バンド絶頂期は転落への前ぶれ〜家族でディズニーランドに行って撮った写真を 玄関に飾りたい。そういうの幸せだなって思う〜)にて、お伝えいたしましたが
ウチの祖母が認知症になり、施設に入所したのが大きく影響しておりまして
ちょっと突っ込んだ話をすると
俺の本籍/岡市家って「本家」なんですね。土着スタイルの一族。ずーっと田の浜に住んでる。
それもかなりの大昔。江戸時代、ペリーが日本に来航した頃には、すでに田の浜に住んでたんですよ。近所の海蔵寺には、その先祖様達が眠る墓もある。
そのためか親戚とか知り合いがやたら多くて、子供の頃から田の浜歩いてると色んな大人達がなんだか特別扱いしてくれる感覚があったし、お盆には色んな人達が訪ねてくるし
だからウチっていうのは伝統のある家なんだろうなっていうのは子供の頃からずっと思ってましたし
そして、その伝統はこれからも永遠に続いていくものなんだろうなと、全く疑う余地なしで。それについて深く考えたことすらありませんでしたし
だから俺ごときがバンドやるっつって上京して、実家を離脱したとしても伝統的には何の問題もないだろうと
思ってたんですけど
祖母の子供達。5人いる中で唯一の男の子。俺の親父なんですけど
その親父が数年前、色々あって実家を出て行ったことによって
伝統の柱がグラついた。
そんな後継者がいない状況で、親族みんなにとって天皇的な存在である
実家のシンボル/祖母が、まさか認知症になるなんて・・
どうする?!俺らのおばあさん!俺らの実家!
総勢17人の子供と孫達、みんな頭を抱えた。
叔母の家に住んでみたりと、アレコレ最善は尽くしてみたけど、仲々うまくいかない、、
そんな時、本家の孫は
東京で浮かれていた
誕生日にステージ上で
ケーキを顔面にぶつけられている時は
そんな実家の炎上なんか知らなかった。
こんな時、、
俺には関係ねえ!俺の人生だし。
ババアなんか知らねえ!
と思えたら、、どんだけラクだったか
野心も、、情も、、中途半端
普段は実家に全く連絡しないくせに
だから、もしバンドが売れて
「これ少ないけど」って叔母の口座に何十万か振り込めるくらい金銭的に協力できるまでになれば
こんなに後ろめたい気持ちにもならないし、田の浜のみんなに堂々と東京でバンドやってる!って言えるんだけど
コーチガリーでそれが出来んのか?
◼︎そして、このレコーディング中に人生レベルの大きな出来事が…
妹に子供が生まれました。
3歳年下で、子供の頃は生意気なクソガキだと思ってたあの妹が母親になるなんて
ていうか、新生児パワーは凄いですね。
「叔父になる」っていう体験を初めて味わった時って、よっぽどのサイコパスじゃない限り、いろいろと胸に去来するはずなんですよ。
否が応でも、叔父さんがこんなにウダツの上がらないままでは駄目なんじゃないかなって思っちゃう。
だから認知症になった祖母と合わせて
甥っ子の誕生っていうのは、俺をさらに崖っぷちまで追いやってくれましたよね。
そしてコンバットレスリング出場前に、世田谷通りをランニングしてる時に降ってきた「頑張ったけどダメだったって言ってもいいよ」がアルバムの1曲目に選ばれ
いや ホント まじで
俺らと 世間と
運よ 頼むぞ!!
◼︎崖っぷちに追い込まれながら完成した二枚目のアルバム「あいたい気持ち」
崖っぷちを感じていたのは、もしかしたら俺だけかもしれませんけど
忸怩たるさまざまな思いに責められて完成したコーチガリー/二枚目のアルバム「あいたい気持ち」(前作がミニアルバムだったので1stフルアルバムという位置付けですね)
スターになりたいので買ってくれ!
なんて、もう言いません(笑)Amazonだと送料の方が割高という謎の現象が発生しますし(笑)
その代わり、Apple Music(こちらから)で今スグに聴けます!Wi-Fi環境があればタダ!
とにかくメンバー、スタッフ全員、やれるだけのことはすべてやり尽くしたアルバムなんですけど
録音作業の全日程を終え
あとはミックス作業やマスタリングなど、次の段階に移ろうかという時
思わぬ展開が、、
◼︎神様がサネさんの喉ポリープを通じて考える時間を与えてくれた
これまでのバンド活動連戦続きで
年々、ボーカル/サネさんの喉の奥で肥大化してきたポリープが、今回のレコーディングでついに限界を迎えまして…
でもCD発売と全国ツアーはまだ二ヶ月くらい先だから、今のうちにポリープ除去手術しておいて
ツアーまで少しのあいだはバンド休養を挟もうと
それは必然的に俺ら、他のメンバーも休みになるんですけど
ライブもない、スタジオ練習もない生活なんて何年ぶりでしょう。
久々に現場を離れ
世間一般側の視点から、バンドを見てみた時
すごい事に気付いちゃったんですよ。
「俺ら、このまま一生、売れない」
ある偉人は「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」と言いました。
でも分かるんです・・。アルバム発売前だけど
全国区なんか、何回生まれ変わっても絶対ムリ
それどころか、たった一万円すら実家に協力してあげることが生活的に厳しい現状は
このままだと永遠に続く・・
つづく
次回「売れないと悟ってからが本当の勝負、そこからバンドに対する愛情が問われる…。お前はどうなんだ?!」→読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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