岡市 尚士
満を持してK-1にやってきた2002年秋のボブサップと下北沢のバンドマン達 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第95話」
2020年3月現在、世界中が新型コロナウイルスで大騒ぎしてます。
数年後、うっかりこの記事を目にした人が「ああ、そういえばそういう騒動もあったな」なんて思い出してもらえるよう
早く収束してほしいという願いを込め、あえて今回の騒動に触れてみた次第です。
そして思ってみれば、この連載が始まってから、もう一年以上経っていて、そろそろ100話という金字塔を打ち立てるじゃないか!
、、と騒いでみたところで
誰からも相手にされないのもコロナウイルス騒動のせいなんだろうと思うことにします。
そして、不要不急の外出自粛が叫ばれてますが、このブログほど不要不急なものもないんじゃないかな(笑)
ただ、運営サイドといたしましては、たとえ無観客でも投稿する所存です。
-目次-
- クズだけどコミュ力の高いバンドマンは、その後の人生でもそこそこやっていける論
- 下北沢ライブハウス名物「ビラ撒き」と、新人/亮太
- バンドマンという名の営業マン
- 処女作「DEEPER THAN ORANGE」
- 右肩上がりの車窓から、たまたま観た廃業寸前のバンドのボーカルが最強の人心掌握術士だった件
- 快進撃が止まらないボブ・サップに、我がBOSTON☆CLUB BANDを重ね合わせた
クズだけどコミュ力の高いバンドマンは、その後の人生でもそこそこやっていける論
バンドの世界というは社会不適合者の集まりのようであっても、そこには社会が成り立っています。
最初こそ友達の部屋で、少人数で音を鳴らすことから始まったバンドであっても
そこに「成り上がりの精神」が宿り、世間との繋がりを持ちだすと、あれほど仲良し3人組みたいな俺らだったのに、なんだか会社然としてくるんですよ。
父親が出て行った実家なんか脇目もふらず、家族に対しての思いやりが全く無かったり
親友という関係から始まったバンドメンバーがモチベーション低いと見なすや、容赦なくブッた斬ったり(前記事参照)
そんな人間的な欠陥をたくさん抱えた俺みたいなクズが、今現在もそれなりに給料もらって、のうのうと暮らしていられるのは
バンドマンという名の営業マンがウジャウジャいる世界に長年いたおかげで
クズの本性の上から外ヅラの良さを、分厚い化けの皮でコーティングできたからなんじゃないかなとさえ思っております(笑)
下北沢ライブハウス名物「ビラ撒き」と、新人/亮太
当時、終演後のライブハウスというのは
ビラ撒きの集団が階段にキレイに並べられたドミノのごとく、それはもう下北沢の名所と呼んでもいいぐらい壮観な列を成しておりまして
ライブフロアから出てくるお客さん一人一人に配るのが本来の目的なんですけど、そのビラ撒き軍団のほとんどがバンドマンかイベンターなものですから
ここに来ると何かとコネが生まれやすいですし、それキッカケで展開が生まれるなんてザラにありますので、ほぼ毎晩のように来ていたんですけど
このビラ撒きに、辞めてもらったドラマー/キヨシの愛弟子だったにも関わらず、新ドラマーとして強引に引き入れた亮太も連れて行くようになりました。
ニューフェイスの亮太を連れて行くことでプロモーションにもなるし
そんな小狡いにもほどがある、姑息な俺の考えを飛び越えて
亮太は優秀でした。
普段いくら愛想が良くても、こういう場に連れて来られた時、外部と上手くコミュニケーションを取れる人と、そうでない人がいますが
亮太は、俺の関与していないところで他のバンドのドラマー達とメアド交換したりしてて
ほう、仲々やりよるなと
感心しましたね。もしかしたら新しい仕事とか引っ張ってくるかもしれません。
ただ、このあまりにも営業マンが過ぎる俺のスタイルは批判食らったりもしましたけどね。
バンドマンという名の営業マン
そこそこ有名だけどヒットチャート上位には食い込んではこないロックバンドなど、どちらかというと″ややアンダーグラウンド寄り″の音楽を好む人達は
あからさまに売ろうとしている音楽を毛嫌いする風潮があります。
あからさまに媚へつらい、愛想を振りまく
そんな俺の過剰な営業マンスタイルに、知人達から批判が殺到しました。
やれ「あざと過ぎる」だの、やれ商業音楽的過ぎるだの
いや分かるよ!?
俺も高校時代「小室はクソだ」と言っていたクチだったので、この姿勢がロックらしくないって事は重々
ていうか、ロックらしさって何なのさ?って話は一旦置いておいて
ロックらしいか、ロックらしくないかで言ったら「媚びる=魂を売る」姿勢って、なんだかロックらしくはないですからね。
そりゃあロック日本代表みたいなブランキーのベンジーとか、チバユウスケとか「今度イベントやりまーす!」ってビラ撒きなんかゼッタイやらないもんね。
でもね、ライブハウス出るようになって分かったのよ。
ベンジーとかチバユウスケって天才なんです。
そして、ここでビラ撒いてるバンドマン達だって全国各地から集まってきた百戦錬磨だってことを忘れちゃいけない。
みんな我が町を代表して、ここに集まってきて。このライブハウス界隈の中でも、さらにふるいにかけられてイベント出たりしてる、そんな連中ですから。
だから、どのバンドが売れてもおかしくない。群雄割拠の戦国時代みたいなもんで。
そこで勝ち上がるためには媚でも売らなきゃなぁって気持ちにもなってくるだろうがっ!
いつまでもライフの時給820円のパン屋なんか居たくねえっつーの!
そんな、俺らビラ撒き軍団の横を、颯爽と駆け抜ける天才がいました。
レミオロメンです。
前々回の記事で観客がたったの5人しか居なかったレミオロメンが
この頃、ガレージで企画イベントをやるというので、ちょい久々に観に来たんですけど
二ヶ月前は5人しか入ってなかったのが、ほぼ満員で・・
、、これ、どうやって集客したの?!って
謎でした。彼らライブのたびに山梨から来てたのでビラ撒きなんか絶対やってないんですよ。
という事はライブ一回一回で確実にお客さんを集めていったんでしょうね。
まあ、これが本来あるべきバンドの姿なんでしょうけど
だから客が5人くらいしか居ない時期から、彼が天才であるという事に賭けていたプロデューサー小林武史の先見の明ってヤバイなって
そんな天才に反骨精神を刺激され
より一段と営業スマイルがニコニコになりました(笑)
こんなのロックじゃねえ!
そして下北沢ガレージからオファーをもらっていたアルバムの全貌もそろそろ明らかになります。
マット界では、ノゲイラに殺人パワーボムを放ったボブサップが、今度はまさかのK-1に初参戦を果たす頃でした。
※余談ですが
令和の現代においても「K-1みたいなやつ」というぼんやりした格闘技のイメージは世間に根付いております。
もしかしたら、この頃のボブサップの活躍もその要因のひとつなのかなと個人的に思います。
ブラジリアン柔術家でもあるノゲイラと総合格闘技ルールで闘った直後に、K-1へ参戦を果たして。以後、彼はずーっとK-1を主戦場にしていたわけですから。
詳しくは数年前に書いた『「ブラジリアン柔術です。」「K-1みたいなやつですか?」この不思議なやり取りについて』からどうぞ。
処女作「DEEPER THAN ORANGE」
ノゲイラに殺人パワーボムをかまして、敗れはしたものの世間に大きなインパクトを残したボブサップが
団体の枠を飛び越えて、今度はK-1のリングに初上陸した9月22日
その初戦で、あのピーターアーツに2度もKO勝ちした喧嘩屋シリル・アビディを、ボブサップはたった1ラウンドでブッ飛ばしちゃったんですけど
それとほぼ同時期
下北沢ガレージからオファーをもらっていたアルバムの全貌が明らかになりました。
今作はNormadic Recordsというインディーズレーベル(ACIDMANなどを輩出)と、下北沢ガレージの共同企画というカタチで
第一弾「DEEPER THAN ORANGE」
2002年12月発売
第二弾「DEEPER THAN BLUE」
翌2003年3月発売
営業活動がロックらしくないと揶揄されながらも、愛想を振りまいてコネを広げてきたこともアルバム参加の一因となったのかは分かりませんが
この第一弾「DEEPER THAN ORANGE」がバンドにとっても自分自身にとっても人生初の、一般流通CDアルバムとなります。
アルバムの中身は次回!(今回わざわざAmazonで買いました)
右肩上がりの車窓から、たまたま観た廃業寸前のバンドのボーカルが最強の人心掌握術士だった件
知人達からロックらしくないと揶揄されたバンドマンという名の営業マンの俺ですが
上には上がおりまして、営業力どころか、人心掌握術に長けている人間もライブハウス界隈には潜んでいるもので
この日も″外回り″ で下北沢ガレージに行きましたらブッキング担当/田中さんから、ある人物を紹介されました。
「あ、紹介するよ。彼はコーチガリーの佐々木くん」
ロン毛だった若い頃の志村けんを彷彿とさせるルックスにユースケサンタマリアのテンションで現れた、その佐々木さんは
「よろしく〜!」と言いながら
ご自身がかけていたレンズの入っていない黒縁メガネのフレームから
指をニョキニョキと出してきました。
、、か、絡みづれえ、、、!!
ちょっとリアクションに困ってフリーズしちゃって、、
こうして佐々木さんことサネさんとのファーストコンタクトは、ボケを殺したまま終わってしまいました。
小ボケに対し、うまく受け身を取れなかった自分の機転の利かなさに少しがっかりしつつ、退散しようとしたら
「ガレージのゲストで入れてあげるから、せっかくだから観ていきなよ。佐々木くんのコーチガリーも出るし」と田中さん
あの小ボケとテンションですから、さぞかしそんな感じのバンドなんだろうなと思いきや
どこかしら初期のビートルズを匂わせる甘口なサウンドを、ただニコやかに演奏しているだけで
全くキャラを活かしきれてねえ!!って逆に衝撃が走りました(笑)
お客さんは5人くらいだったんですけど
同じ5人でも、二ヶ月前に見たレミオロメンの希望に満ち溢れた5人とはワケが違っていて、コーチガリーのそれは完全に尻つぼみの5人でした(笑)
そして何やら、そろそろ活動休止するらしく
その前に企画ライブをやるとのことなんですけど、メンツを聞いてビックリ・・!
アジカンが出るらしいんですよ!!
わかります?!
ASIAN KUNG-FU GENERATION
下北沢のライブハウス出身で2000年代にセールス的に成功したバンドは?って言ったらレミオロメンと、その両翼を分け合うほどの存在であるアジカン
当時、アジカンっつったらメジャーデビュー直前。
そんなアジカンがなぜ、、廃業寸前のバンドのイベントに?!
出るメリットなんか無いでしょ、、(笑)
これは後々、分かることになるんですけど
サネさんというのは、人心掌握術に長けておりまして。知り合いの中で「最も豊臣秀吉に近い人物を選びなさい」と言われたら真っ先にサネさんを選ぶでしょう。
当シリーズ後半戦のキーマンの一人となる人物なんですけど
この頃のサネさんには、FMW旗揚げ前の大仁田厚や、反選手会同盟(のち平成維震軍)結成前の越中詩郎のような
「鳴かず飛ばずの哀愁」が漂っていました。
そんな落陽のサネさんを尻目に
早くもK-1二戦目が発表されたボブサップ同様、我々のレコーディングの話は急ピッチで進みました。
快進撃が止まらないボブ・サップに、我がBOSTON☆CLUB BANDを重ね合わせた
「DEEPER THAN ORANGE」の収録曲が
タカノリの部屋で5分ほどで歌詞を書き終えた「レディオスター」に決まり、そろそろレコーディングが始まろうとしている頃
マット界では、ボブ・サップの「K-1 WORLD GP 2002 開幕戦」への参戦が発表されました。
それも、前回シリル・アビディ戦から、なんとたったの13日後、、!
そして二戦目の相手となるのは、K-1 WORLD GPを過去3度も制したアーネストホースト!!
そんな大忙しのボブサップを追いかけるように
我々にまた!別のアルバムのオファーが、、!
ランクヘッドの企画で知り合ったカンパネルラが新しく立ち上げたレーベルから出すというコンピレーションアルバムでした。
これで我々は年内に2枚のアルバムに参加することになります。
「もうじきライフのパン屋辞めれるぞ!」
マット界で快進撃が止まらない褐色のビーストに、自分らの姿を重ね合わせた2002年、秋
これから起こる大波乱など、全く見当なんかつきませんでした。
つづく
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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