岡市 尚士

岡市 尚士

2021.03.20

地獄の自己新記録 〜2011年3月13日未明から14日にかけて〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第150話」

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もう限界だった。

3月13日未明

カラダが全く言うことを聞いてくれない。

(これまでの詳細は前記事「朝が来た、地獄絵図〜3.11の夜明け〜」参照)

どんな自己暗示も、自己啓発も効かない。

どんな同調圧力にも屈しない自信がある。

…同調圧力

アレ、俺は同調圧力で動かされていたのか?

いや違う。

田の浜に大津波が襲来してから取ってきたこれまでの行動は、すべて俺個人の意思だ。

いくら消防団に属してるとはいえ、村人達を避難誘導し、火災発生に対応しながら日付が変わり、朝が来て遺体捜索と搬送をし、そしてまた夜になり、山火事へ向かったのもすべて

そこには俺個人の意思があった。

しかし日付が3/13に変わったあたりからだろうか

我々の活動は、俺個人が対応できる範疇を超えてきたように思う。

情けないが俺には不屈の精神はなかった。

炎が燃え盛る愛する田の浜を前にしても、とうとう「寝たい」という感情しか湧いてこなくなった。

そんな真夜中の俺を支えていたのは間違いなく同調圧力だ。

しかしこの同調圧力も朝が近づいてくるにつれ、そろそろ効力が切れそうだ。

いよいよもってカラダが言うことを聞かなくなった。

でもそれならそれで良い。

あとからみんなに文句言われれようが動けないもんは動けない。むしろこのまま動いてくれなくて良い。

それにしても、みんな凄い。

3月11日と12日丸二日間、寝れず飲まず食わずなのはみんな同じ。

それなのに、これから向かう山火事に向けて表情こそ険しいものの

俺みたいに道路に横になってる人間は一人もいない。

凄いです、みなさん。お先に行っちゃってください。

俺はもうダメです。おまけにコンタクトレンズ丸二日つけっぱなしで眼球がバッキバキに痛いときた。

いっそこのまま、くたばってしまいたい。

そんな想いを

太陽に邪魔された。

太陽の光をすこし浴び続けたら、このまま動いてくれるなと思ってたカラダが動きやがった。

余計なことしやがって。

太陽が憎い。

ゾンビみたいにみんなの後ろをついて

山火事へ向かった。

《全6項目》

・上空にヘリコプターが…!敵か?味方か?《1/6》

死んだ目で、今日も今日とて山火事と遺体搬送

しかし昨日3月12日のような懸命さはない。

太陽の光によって辛うじて動けているだけの物体だ。

よって個人としての感情は無い。

目の前で炎が燃え盛ろうが、遺体が上がろうが、昨日みたいに慌てたり、悲しんだりできる隙間はまったくない。

ただ手を動かすだけ。

…すると、ふと上空にヘリコプターが!

あ、去っていった。

また現れた!あ、また去った。

これを繰り返している。

何やってんだよ、さっきから!あのヘリは!

無感情と言いながらも敵なのか味方なのか分からない挙動にイライラしてくる。

昼下がり、情報が入った。

あのヘリは自衛隊だ、と!

・村人を助けにきた自衛隊《2/6》

田の浜の山にある「タブの木荘」という廃ホテルの、広大な駐車場を″ヘリポート″代わりに

そこに今から自衛隊のヘリが着陸するらしい!

田の浜の人達を救助しに来るそうだ!

今すぐ、消防団屯所はじめ各所に避難してる村人達を

全員、タブの木荘まで輸送しろ!

突然、与えられた新ミッションだったが、戦況が変わったことで俄然気持ちが湧いた。

各避難場所をまわり村人達を軽トラの荷台に乗せられるだけ乗せ、避難場所⇆タブの木荘間の輸送を何度も繰り返した。

全員が広大な駐車場に集まり

そこに現れたヘリコプター

物凄い突風と、そして実物デカイ!!

次々と田の浜の人達を乗せて

あっという間にどっかに飛んで行った。

俺らと他数名だけが炎と瓦礫に囲まれ「陸の孤島」と化している田の浜に取り残された。

まあ、それは分かってたことなのだが

ヘリが飛んで行った日暮れの空は

「クソでも喰らえ」と言わんばかりに

不運を降らせてきやがった。

…雪だ。

しかも大粒の

・地獄の自己新記録《3/6》

この状況下において雪が降るということは、どういうことかお分かりだろうか

これまでの山火事消火作業というのは

複数の側溝に貯まった「山水」を用いており、やはりどうしても貯まるまでの待機時間が生まれるため

合間合間で休めたのだ。

しかし雪が降るということは

山水以外の「消火の方法を天が恵んでくれた」という見方もできる一方で、それはすなわち

俺らの体力、気力、精神力が休みなく削り取られる事とイコールである。

各自スコップを持たされ、ヨゴダ目一杯の雪を盛り、炎に向かってかける!!

そんな未来を消防の全員が予想しただろう。

まんまその通りの夜になった。

これは地獄の自己新記録達成だ。

レスリング部時代に経験した二度に渡る10キロの減量を超える地獄かもしれない。

飢餓という側面だけであれば減量の方が大変だが

その上で、寝かせてもらえない、休ませてもらえない村はグチャグチャという点を加味すると

やはり地獄の自己新記録達成だ。

もう真夜中。

団長のユウさんは雪上で、大の字に倒れていた。

そんな時だった。

「みなさん、これ食べで!!」

田の浜に残った数少ないうちの一人が、箱にギッシリ詰まった「トマト」を持って現れた。

・雪の中のトマト《4/6》

…脳からよだれが出る感じがした。

三日ぶりの食べ物!!

迷わず一個手に取り、かぶりついた!!

う、うまい!!

うま過ぎる!!

そして甘い!!

野菜というより果物だ!!芯まで甘い!!

全身の細胞が喜んでいる!!

文句なしの第一位!!

これまで生きてきた中で「うまかったもの」といえば

二度に渡る10キロの減量後に飲んだ「水」が長いこと一位&二位を占めており、このまま揺らぐことはないだろうと思っていた。

ちなみに三位は、コールセンター時代に富士山頂まで麓の富士吉田駅から登った際、十号目手前の山小屋で食べた「800円する日清カップヌードル普通サイズ」

これらの記録を、このトマトが塗り替えた。

二個目にも手をつけたかったが、さすがに我慢した。飢餓なのは俺だけじゃない。

しかし一度、火がついた食欲は抑えきれず

たまらず目の前の

雪を食った。

…ハッ!うまい!!

そうか雪なら食い放題だ!!

両手で頬張れるくらいの雪を腹一杯食った。

この雪が、トマトに続いて「第二位」になった。

雪のおかげで俺は少し元気になったが

他のみんなは雪にまで手はつけることはなく、トマト一個だけで我慢しており冗談抜きで死にそうで

そして、今日ヘリで救助されていった人々がこれまで泊まっていた消防団屯所の二階和室大広間が空いて、全員が寝れるスペースが生まれたので

山火事が完全鎮火したわけではないが

下山し我々は消防団屯所に帰った。

・三日ぶりの睡眠《5/6》

和室大広間の畳はガッチガチに凍てついており

布団類も足りていないためタオルケット一人一枚程度の厳寒な環境ではあったが

気がつくと3〜4時間後の朝にワープしていた。

目が覚めると猛烈な空腹

やはりトマトと雪ではどう考えても腹持ちが悪い。

そんな我々の前に、田の浜に残ったお母様方が

「塩おにぎり」を握って持ってきてくれた。

ただし一人一個、手のひらサイズぐらいの大きさで

大体0.5秒で完食してしまったので満腹にはならなかったが、それでも全員が、真っ黒な手にこびりついた米を一粒残さず舐めるほど、うまかった。

これを握ってくれたお母様方は

ヘリで救助されていった村人達にもずっとこうやって食べさせていたのだろう。お母様方も裏側で闘っていたのだ。

そんな塩おにぎりが、トマト、雪に続いて「第三位」になった。

・最後の踏ん張り、3月14日《最終項目》

正直、まだまだ足らなすぎる睡眠と食事ではあったが

「今夜からはちゃんと寝れる」というユウさんの言葉を励みにすれば、どうってことなかった。

そして、この3月14日の夜

いよいよ我々の前に「食事」が現れた。

・お母様方が作ってくれた味噌汁

・この日から介入を始めた自衛隊様から届いた物資の中にあった「レトルトの牛丼」(白米にかけて)

たしか、こんな感じのメニューだった。

これを仮に「震災定食」として、消防のみんなで卓を囲んで、いただきますしたコレが

トマト、雪、おにぎりに続いて「第四位」になった。

そして我々は

ユウさんの宣言通り、8時間は寝た。

以上、ここまでだ。

震災後に地獄のようにきつかったのは、この3月14日までで

あとはもう

翌、3月15日以降は

決して楽とは言わないが

他人の死を悲しむ余裕が戻った。

「生きてきた中で″うまかったもの″ランキング」も

1位/トマト(2011.3.13)
2位/雪(2011.3.13)
3位/オニギリ(2011.3.14)
4位/震災定食(2011.3.14)
5位/10キロ減量後の水(1998.このあたり
6位/10キロ減量後の水(1998.このあたり
7位/800円の日清カップヌードル(富士山/山小屋)

2011年3月14日更新のまま止まってる。

この翌日、2011年3月15日に食べたものも

10年後の2021年3月15日に食べたものも

どれも同じ。普通にうまい。

そしてこの3月15日以降

衝撃的なことを知る。

それは自衛隊から回ってきた新聞の

トップ記事に掲載されていた。

「…なに!?、、東日本大震災だと!?」

この時、はじめて

甚大な被害を受けたのは

俺ら東北の太平洋沿いだけだということを知った。


つづく

次回「 東日本大震災 〜地獄生還後の集団生活に垣間見える人間の愚かさと違和感〜」←読めます。

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この記事を書いた人

岡市 尚士

岡市 尚士

ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。

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