岡市 尚士

岡市 尚士

2019.09.13

プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで 第58話「高校生レスリング部員から見た高田延彦vsヒクソングレイシー」

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1997年10月11日

「よりによって一番弱い奴が出ていった」

試合の感想を求められたアントニオ猪木先生の無責任にもほどがある事で有名なコメントですが

起きてしまった事実との「妥協点」を強引にでも見つけて民の落胆を鎮めるとしたら。高田延彦先生には気の毒だけど、このコメント以外に適当な言葉が思い浮かばないほど当時の日本マット界には震災レベルの出来事だったわけです。

そんな日本マット界に確実に残る一戦

もちろん観ました。

この頃は直近の記事でも書いている通り。

運命の掛け違いでレスリング部とパンクバンドという二足の鉄ゲタを履く羽目になってしまったので(未読の方は読んでね💩←ココ)

当時、マット界どころか日本全土。果てはこの岩手県沿岸部までを席巻していたnWoブームっていうかnWoのTシャツブーム?

一昔前の自分ならブームの先陣を切ってnWoのTシャツ着て。顔にnWoムタかnWoスティングのペイント施して学園祭に出ちゃう。それぐらいの気概は持っていたはずなのに。

レスリングとバンドに日々追い込まれて。

そんなnWoブームも週プロとワールドプロレスリングで追うのが精一杯。昔みたいにいちいち結果諸々に一喜一憂してる心の余裕がない。

そんな状態の俺ですら

この世紀の一戦だけはビデオを録画して正座して観ました。

結果については誰でも知ってますので言及しませんけど。

この試合を観てまず何に驚いたかって

あ、これから書くことは「それぞれの全歴史を背負った者同士の勝負なんだ」っていうところまではそこまで理解出来ていなくて。プロレスマスコミから与えられた情報だけで生きてきた高校生レスリング部員が純粋に思ったことなので、どうか穏便に聞いてほしいんですけど

ヒクソンの両脚タックルがあんまり上手く見えなかったんですよ。

なのに!高田先生がそのタックルで軽々とリフトアップされてテイクダウンされた。

これがすげーショッキングで。

だから勝敗よりも内容ですよね。

寝かされたあと柔術のセオリー通りにやられてしまったのは仕方ない。

問題はその前の段階。

高田先生が「タックルに全然対応出来ていなかったように見えた」印象で・・

俺らレスリング部員というのは

日本レスリング界トップクラスである星先輩、村上先輩はじめ数多くのOBの先輩方に揉みくちゃにされながら毎日2時間30分もこの攻防を研究してるようなものなんですよ。

だから

え、なんで?!

レスリング出来るんじゃないの?!

という驚きしかなかった、というのが当時の正直な感想です。

しかし、いかんせん22年前の事ですから。今日に至るまでその記憶が湾曲して定着してしまってる可能性もあります。

なので今回あらためて観直したんです。

2019年9月現在「高田 ヒクソン」でググるといつかヒットするんですがニコニコ動画で当試合のフルバージョンが観れます。

記憶の中では「接触した」と思ったらアッサリ負けた印象なんですけど。

観直してみたところ。その接触は「2度」ありましたのでやはり記憶が簡素化されていますね。

1度目は組み付いたヒクソンが高田先生の脚を狙ってるのが分かりますがコーナー際で高田先生がロープを掴んでたため?すぐにブレイクがかかり引き離されて、またスタンドから再開。

そして2度目の接触。

我々の記憶に強く残っているのはこっちのターンです。

試合の印象としてずっとあった「タックルに全然対応出来ていなかったように見えた」

についてなんですけど

時間は超短いながらも「攻防」はちゃんとありました。

そして対応出来なかったのではありませんでした。

高田先生ちゃんと対応しています。

この攻防は大きく2つのセクションに分けて考える事ができます。

まずセクション1

組み付いて高田先生の脚を狙ったヒクソン

しかし高田先生、腰を落としてヒクソンの脇をさしてちゃんと対応しています。

押し込み過ぎてワキのさしが少し甘くなった。

これで一瞬、2人のカラダが離れました。

ここまでがセクション1

問題はそのあと

セクション2

高田先生立ち上がりました。ヒクソンはまだ片膝を着いています。

ここで何を血迷ったか高田先生

ヒクソンの頭を取りにいく&ヒザ蹴りを繰り出すような動作で自らの脚をプレゼントしてしまいます。

これがあかんかった!

セクション2が始まった段階でヒクソンの頭を取りにいくのではなく、まずは腕で距離を取りながら頭を制せれていれば・・

だから「タックルに全然対応出来ていなかった」んじゃなくて

余計なことを、、、

そんな事、百も承知だよ!!というのはおっしゃる通りです。

試合は仲々練習通りにいかないというのは100戦以上試合してみて本当によく解ります。

台東リバーサイドや墨田区総合体育館でも超緊張するのに。

それが東京ドームですからね。

観てるのはジム仲間や家族友人だけじゃなくて日本全土のプロレス/格闘技ファン関係者の注目を一挙に集めて。

しかも

1921年前後(大正10年前後)ブラジル在住の柔道家・前田光世先生に叔父カーロスグレイシーが弟子入りしたことから始まったとされる一族の歴史と

1953年(昭和28年)アメリカの沖識名の下で猛特訓した力道山先生が帰国後に設立した日本プロレスから始まったとされる歴史の

その後者の方の歴史を背負わされてるワケですから。

正常な判断なんか出来なくて、ひとつもおかしくない。

田舎の強豪校でもない高校レスリング部員の論考なんかで語れっこないんですよ。

ではこの敗戦によって精神的にズタボロになり。クソミソに叩かれて。かなりの物を失ってしまったあとの

2戦目はどうなんでしょう。

もしかしたら初戦よりはプレッシャーは少ないのかも。

ちょうど一年後の1998年10月11日に行われた再戦。

これもあらためて観直してみました。

こちらはYouTubeでフルバージョンがアップされてます。

初戦で見られた距離を取ってコツコツ蹴りを出しながらしばらく見合ってた緊張感溢れる展開とは打って変わって

開始早々、組み付いた!

しかも高田先生が両脇を制してる!

なんと最初にテイクダウンを仕掛けたのは高田先生。

しかもこれって半身だけ下がったところに相手を落とし込む技術で。グレコの選手がよく使うかなりの高等テクニックです。

すぐヒクソンに立たれてしまうんですけど

その後も高田先生が両脇を制したままの展開。

ヒクソンどうにか下の方にプレッシャーをかけたい、といった印象。

一瞬、カラダが解かれた瞬間

高田先生のワンツーがヒット!

その後、四つに組んだあと一直線にコーナーに押し込んだ高田先生。これを作戦として徹してるようなスムーズさです。

総合格闘技のルールもセオリーも全然整備されていない98年当時ですけど。現代MMAの観点から考えるとめちゃくちゃ良い作戦じゃないですか?

しばらくこの風景が続くんですけど

え、高田先生。

もしかして有利??

ヒクソン疲れてきて嫌そうな表情。

その内、組んだまま膝で蹴り合う展開が生まれてきて。

何発目かの高田先生の膝蹴りでヒクソン倒れた!

また立たれてしまうんですけど

結局、ここに戻る。

でもこれって現代MMAならずっとこのパターンを続ければ判定勝ち出来る展開じゃないですか?

四つ組みも頭の位置が低くてとても良いところですね。

そして序盤でも放った、半身引いたところに相手を落とし込むテイクダウン。さっきより力任せだけど

成功!

以下、省略します。

俺からは以上です!これ以上、何も言う事はありません。

高田先生は充分健闘しました。

今回この記事を書くにあたってこの2試合を観直してビックリしたんですよ。

レスリングが出来ないという印象しかなかった高田先生でしたけど御見逸れいたしました。真逆でした。

戦略さえしっかりしていれば活かせるほどのレスリング技術持ってますよ。

でも高田vsヒクソンというと

98年の再戦の方じゃなくて97年のアッサリ負けた方がクローズアップされてしまう。

実際、俺だってこの記事を書かなければ一生そういう印象のままだったでしょう。

とにかく高田vsヒクソン戦というのは97年の敗戦後にマスコミ、関係者、ファンに受けた大バッシングのイメージが強すぎるんです。

でも今回の記事を書いて見方がかなり変わりました。

「田村、今日お前良くここに上がってきたよ。イヤな役を引き受けてくれたよ。お前男だ。ありがとう!」

数年後、御自身の引退試合で介錯役を務めてくれた弟子/田村潔司先生に対し、高田先生が投げかけたこの言葉って

高田先生自身にこそ言ってあげるべきなんじゃないかなと。

だって信号のない時代にみんなを代表して道路に飛び出した。

あ、こりゃ信号必要だなとなって発展して今日のMMAがあるわけですから。

現代MMA界では評価が低め(なのかな?)の印象がある高田先生ですが俺はかなり見直しましたね。

高田、お前男だ。ありがとう!

そしてさっきからMMA、MMAって言ってるけど

MMAは素人の俺をみなさんどうか許してください。

つづく

次回「その日」←読めます。


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この記事を書いた人

岡市 尚士

岡市 尚士

ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。

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