岡市 尚士
プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで 第30話「揺らぐ中二と苦悩のマスクマン11年目の勇気」
一生揺らぐことなんて絶対にないと思ってたプロレスへの愛情が、、
1994年のJ-POPだったり、周辺の音楽のあまりの手数の多さにダメージが蓄積し
とうとうグラついた拍子に親父の部屋にあったエレキギターを手に取ってしまいました。
これは蝶野正洋が馳浩を血祭りにあげてヒールターンした時期と重なります。
しかしG1三度目の優勝後に確信犯的に計画された蝶野のヒールターンと違って。
俺のギター転向は中二病以外の何物でもありませんでした。
ホントろくでもない。
持ってみたは良いけど、さてどうしよう。
いやビートルズ好きなんだからビートルズやれよ!って感じなんですけど、先天的な音楽の才能や、教養がゼロに等しい14歳がただギター抱えたところで
もう、わからないんですよ。
見知らぬ県の、山に囲まれた一本道にいきなり車からポンと降ろされて。人誰一人として歩いてない、地図もない、もちろんスマホもない。
そんな状態で「ペンギン村まで来てね」なんて訳のわからない事を言われるのと同じくらいどうしたらいいか、わからないんですよ。
どっち?こっち?そっち?そもそもどっちが合ってるのか間違いなのかも、わからない。
もうわからない事がわからない。ひたすらウロウロウロウロ。
こんな感じなんですよね。「ただおぼろげに、ギターをやってみたいだけ」の状態って
そんな状態で耳コピ(音を聴いただけで再現する)とか絶対ムリだし
バンドスコア(五線譜だけじゃなく「TAB譜」といって、より解りやすい楽譜が各パートづつご丁寧に載っている)っていっても高価だし、隣町の宮古市まで行かないと手に入らないし
そして、この頃になると同級生の中からも結構ギター弾けるやつがポツポツと現れ始め
そのほとんどがX JAPAN信者なんですけど
そんなXのライブビデオ「刺激!VISUAL SHOCK vol.2」が俺のところにも回ってきまして。
でも長年、屈強な男達がリングで闘っているのを見て過ごしてきたせいか
Xのライブ映像は、FMWのストリートファイトマッチを観てる時と同じ気分になってしまって(笑)
血と、汗の匂いとか、もうそういう破壊とかっていうのはプロレスだけで充分かなって
音楽にまでそういうのは求めたくない。
のちのちビジュアル系という言葉が浸透しますけど
俺はこっち方面は向かないなって
それでもギターに関しては、ようやく
あんまり家にいない親父がたまたま帰ってきた時に、とりあえずはレギュラーチューニングの合わせ方と、「ドレミファソラシド」だけ教えてもらって
でも、それだけじゃ全然どこにも進めないというのもすぐに判明しちゃって、…参ったな。
クラスメイトには「俺ギター始めた!」って宣言しちゃってるけど、ただ抱えてるだけじゃん。
こんなの、やってるうちに入んねーよな。って自分でも分かってるさ!そんなの!あー、つまらん
一歩も歩き出せてない入門初期のギターほど苦痛なものはありません。
コレいつか弾けるようになんのかなって、やるせない思いで過ごしていたら
俺と同じように…
いや、俺なんかより100倍は深刻でやるせない思いを抱えた人がテレビに映っていました。
その人はタッグリーグ戦の決勝戦という大事な場面にもかかわらずパートナーと仲間割れした挙句
長年かぶっていたマスクを自ら脱いで…!
パートナーに叩きつけた!
「みなさん、こんなしょっぱい試合で、すいません」
普通、決勝戦にこれをやる?!
最後の最後に、全部を持って行った。
まあ結局、藤波の言う通りで「お前!平田だろ」だったワケなんですけど
そんなのどうでもいい
彼もまた10年前、「スーパーストロングマシン」という唯一無二のキャラクターを与えられていながら自分が思い描くポジションまでいけてはいなかったんじゃないでしょうか。
かつて合宿所で新弟子時代を共にした同期は、いまや世界各地にネットワークを張る「RINGS」という組織の大ボスになっている。
そんな今回の「SGタッグリーグ′94」
優勝した武藤敬司・馳浩組と、パートナーをつとめたヒールターン直後の蝶野は浮かばれませんが
長い間、地団駄を踏み続けた末、11年目の行動に出た「スーパーストロングマシン」あらため平田淳嗣が文句なしのMVPだと思いました。
全然しょっぱくなんかないぞ!
「人生には騒動になると解ってても行動を起こさなければならない時だってある」
平田淳嗣しかり、多くのプロレスラーが教えてくれた人生の教訓のひとつだと今でも思ってます。
その勇気ある行動にしょっぱいものが込み上げてきた俺でしたが、人様の試合で感傷に浸ってる場合じゃねえぞ!!
ギター抱えるだけで練習しねえんなら辞めちまえ!!
レスリングに専念しろ!!
…と言いたくなる、こういうモヤモヤした時間も中二ならではなのかもしれませんが
山は少し動きます。
ここでギターを諦める選択をしなかったのが良かったのか悪かったのかは今だに判りませんが
人生が少し狂う方向に、傾きます。
それはWOWOWにて放送された、あるバンドのライブツアーのビデオ録画を
鹿野と同じ小学校だったヒロキにお願いされたことがキッカケでした。
つづく
次回「いかんともしがたい服部はケダモノでボイン」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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