岡市 尚士
チームホージャマシャード入会〜まあ予想はしてたけどブラジリアン柔術は全く楽しくなかった〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第129話」
バンド生命が尽き、残ったのは「ヤニ焼けした部屋」と「シコティッシュ」だけ…
このままだと″くそったれの人生″まっしぐら
そんな28歳の俺が北岡さんの試合に救われ、ブラジリアン柔術を始めようかなと思った前回「北岡悟」から続く今回
最初に言っておきたいことがあります。
世にあるスポーツジムの広告
そのほとんどがとてもキレイなイメージで売ろうとしている。
一般会員じゃなくモデルさんにダンベル持たせたり…とか、ほとんどそんな感じである。
しかし世の中には、そんな″戦略″なんかには
「騙されたくない」人間も存在しており
モデルさんではなく
「練習仲間が忘れたファールカップ(股間を守るための器具)を顔面に被ったオジサン」の写真が決め手となり
入会を決めるケースだって大いにあり得るのです。
まさに、その入会パターンで
俺がチームホージャマシャード(現/代々木フォレスト柔術クラブ)の門を叩いたのは
今から12年前の今日、2008年9月2日でした。
(全7項目)
◼︎入会を通じて、実は「ブラジリアン柔術」に全く興味が無かったという事が分かった《1/7》
「柔術着、持ってませんけど大丈夫ですか?」
この″道着軽視″のメールが、道場とのファーストコンタクトでした。
居ますよね、こういう体験希望者。自分のクラスでも、たまに来るんですけど自身がこんなんだったので渋々受け入れてます(汗)
だって道着って1万円近くするでしょ。困窮を極めるフリーターバンドマンに、この捻出はなかなか痛い!
ある程度慣れてからじゃダメですか??
…って体験希望者の誰もが抱くであろう気持ちを抑えメールで教えてもらった「新宿イサミ」という格闘技専門店に行き
とりあえずその時、店に在庫がある中で一番安かったイサミオリジナルの柔術着を買うところから始まり
9月2日
初めてチームホージャマシャードに来てみて
まず面食らったのがクラス前、道着に着替えていたら「コオリ君」という青帯の高校生から突然、話しかけられ
「あの〜、好きな柔術家とか居るんですか?」という質問から始まったやり取りでした。
「えっ…と、北岡さんとかですかね」と答えると
「あ、総合格闘技がお好きなんですか!」とコオリ君
え??…普通そうじゃないの???
じゃあ好きな柔術家って誰なんですか?とコオリ君に聞くと
「えっと、マルセロ・ガッシアとか…」とか言い出すので
え、誰それ?、、と(笑)
逆に「総合格闘技は観ないんですか?」とコオリ君に訊ねると
「あんまり興味ないですね。最近、総合格闘技の試合に柔術家のホジャーグレイシーとかホナウド・ジャカレイとか出てますけど。彼らの柔術の試合の方が断然面白いですね!」
とのコオリ君の回答に
世の中には
「総合格闘技には興味ないけど、ブラジリアン柔術は好きだ」という価値観が存在することを初めて知ったんですね。
子供の頃からプロレス界/格闘技界を追ってきた俺ですら、これまで知り得ることのなかった、テレビ雑誌などのメディアはおろか、ネットニュースにすら出てこない
そんな「秘境のような国」が存在したのか!と、、
そして矢継ぎ早に「なんで、ここの道場に決めたんですか?」って、他の道場を引き合いに出されても…
パラエストラは聞いたことあるけど、トライフォースとか、ストライプルとか言われても分かんねえし!
それでも、なおも熱弁を続けるコオリ君のソレには、宗教の勧誘じみた何かを感じて、ドン引きしましたね(笑)
そんなコオリ君
今頃どこで、どうなさっているでしょうか
あの時ドン引きしていた俺も、今ではすっかり教団の一員です。
あの時の俺がわかっていなかったのか、今の俺が狂っているのか、それは12年経った今も謎なんですけど
そんな、まだどちらかというと、狂っていなかっ…、いや、わかっていなかった当時の俺がコオリ君の熱弁に困惑していると
「ジョス!」と元気な挨拶が聞こえてきて
振り返ると、そこに現れたのは
俺がここに入会する決め手となった道場ブログの画像
「練習仲間が道場に忘れたファールカップを、顔面に被ったオジサン」
その中身の人でした。
◼︎次々と集まる魅力的な先輩達《2/7》
「…本物だ!」まるで、一方的に知っていたアイドルが来た!みたいに勝手にドギマギしながら、その人の動向を追っていると
周りとの話の流れで、どうやら「向後さん」という方だと知りました。
そしてその後、少し遅れて道場の扉が開くと
「I’m JIU-JITSU BLACK BELT」と、プリントされたTシャツが目に飛び込んできました。
そんな威風堂々たるにも程があるメッセージ性のそのTシャツを、はち切れんばかりの大胸筋に合わせて、 あえて小さめサイズをチョイスして着こなし
自らを「TJ」と名乗る、その男性こそ
我々の師匠・平野TJヨーイチ先生でした。
そして道場に入って来られて早速、TJ先生はどうやら「大のタバコ嫌い」らしいという情報が耳に刺さりまして。当時、和田アキ子ばりのヘビースモーカーだった俺は一抹の不安を覚えました。
何やら、道着にお着替え中のTJ先生と誰かとの雑談の流れで聞こえてきたんですけど、どこそこの店で隣の奴がタバコ吸ってて注意したが生意気な態度だったので××してやった云々の、ザワザワした話が(汗)
なので俺もいつかTJ先生に××されるんじゃないかと、入会からしばらくずっとヒヤヒヤしてました(笑)
そして、ここチームホージャマシャードにはTJ先生をはじめとして、奇妙なコードネームで呼ばれる人々が多数在籍しており
「ニセ」と呼ばれる、一体そのどこらへんがニセなんだろうな?と首を傾げたくなる先輩や
TJ先生にあやかった「小TJ」
ソフトなネーミングの割に、非常に聞きにくい由来の「トロさん」
そして、明日のMMAファイターを夢見る「20%」と呼ばれる青年は、のちに「ZSTの体操のお兄さん」と呼ばれることになる現FIGHTER’S FLOW代表取締役/上田貴央である。
そして、のちのち俺も大変光栄なことに「フ◯ラ市」という身に余るコードネームを授けられる事になります(笑)
そんな愉快なコードネームの弟子達に囲まれたTJ先生のテクニッククラスは単純に楽しかったです。
思ってみれば「U-FILE CAMP練習会」に行ってた頃というのは、血の滲むようなスパーリングばかりで、こんな風にテクニックを習うのなんて、もしかしたら生まれて初めてかも
たしかTJ先生に一番最初習ったのはスパイダーガードで相手を一旦崩してからのスイープ(ひっくり返す)でした。
うわ、楽しい
…と、体験者の誰もが思うであろう事が一瞬だけ頭をかすめたんですけど
ハッ…!
気を緩めてはいけない…俺はこれまで散々ツラい思いをしてきたじゃないか
そろそろ現実の時間が来るぞ…!
「スパーリング」
U-FILE CAMP練習会時代のスパーリングというのは「悪天候の荒波をマグロ船で行く」ようなものでしたので
テクニッククラスで広がる景色が、たとえ穏やかな海のように明瞭であっても
…スパーリングになった途端、絶対に荒れる!
…という事は、ある程度は予想済みで
ツラい現実を見せられるだけで決して楽しくはないと
だから、あらかじめ″負の感情″が作動しないための、何箇条かを自分に課してたんですが(前回参照)
ところが
荒波くらい視界が悪かったU-FILE CAMP練習会時代のスパーリングと違って
ブラジリアン柔術の場合
…もっと酷かった(笑)
◼︎ブラジリアン柔術のスパーリングは初心者にとっては「砂嵐」!!《3/7》
荒波どころか砂嵐や!!
さっぱり何も見えねえ!!
まあ予想はしてましたけどね。
だから「先程TJ先生から教わったスイープ、使えねえじゃねえか!」と体験者の誰もが思いそうな事なんか全く思わない
むしろそんな簡単にいくわけねえじゃねーか!と自分に言い聞かせていたら
…下から、見事に腕を極められました!
この電光石火の腕十字の主である先輩から、俺は長きに渡り「柔術を超えたものがプロレスである」というメッセージを一方的に受け取ることになります。
黒田キックスクール代表/黒田道鷹先輩です。
そして現在「ねわざワールド」でインストラクターを務める酒井峰行先生の″責め″はとにかくイヤらしくて堪らなかった(じゅ、じゅ柔術的な意味で…!)
ハンセンのラリアットを喰らいまくった小橋建太が、そのラリアットを何と自分の得意技にしてしまったように
俺も、長男の名前に″三″という漢字を引用するほど、のちに三角絞めが得意技になったのは
酒井さんの三角を喰らいまくったおかげだと思っております。
それにしても、どう見ても「砂嵐」にしか見えない、この景色の中を
「青帯」以上の色帯の先輩方は、まるでアスレチックで遊ぶ子供みたいに楽しげなんですよね・・
◼︎俺には砂嵐にしか見えない景色が、おそらく明瞭に見えているであろう青帯以上の先輩達《4/7》
上記に挙げたメンバーでいうと黒田さん、酒井さん、トロさん、ニセさん、向後さん、コオリ君が「青帯」
それより上の「紫帯」だった、当時の塙龍太郎先輩、中島浩先輩、小林さん、アサミさんや
「茶帯」だった新井孝太郎先輩レベルになると
こんな感じでスパーリングをやっている風に
初日の俺の目には映ったんですね。
そして、この色帯の方々に感じる光景っていうのは、数年前アクシス柔術アカデミーに体験行った時と全く同じで
アクシスにも、ホージャマシャードにも、そのどちらにも共通して言えるのは
「青帯」の人達はみんな楽しそう
まあ紫帯、茶帯レベルにはなれなくとも
せめて青帯の先輩達みたいに楽しげにやれるだけの、そんな「確実な技術」が欲しくて
入会してきたわけなんですけど
しかしまあ、いかんせん初日ですから
どんなに頑張ってみたところで
「暴漢」みたいな戦い方しか出来ない・・
◼︎初心者のスパーリングが一番危ないを見事に体現した初日の私《5/7》
とにかくフィジカルとスピードに任せた暴漢みたいな戦い方しか出来ない初日の俺であっても
これが色帯の先輩達の手にかかると
「これぞ柔術のテクニックだ!」って感じの
見事に、やっつけられている構図に着地します。
…が、しかし!
これが「vs 初心者」になると
喧嘩みたいなスパーリングになってしまう
これでは、同じ白帯相手に怪我させてしまう危険性があるから危ない…!
しかし、そんな事なんかお構いなしに
全く「無自覚」のままスパーリングを続けていた俺にカラダで教えてくれたのが
この日一番最後のスパーリングで、相手をしてくれた先輩でした。
その先輩は、遅い時間に道場にやってきて
そそくさと青帯を巻いたかと思うと、ノンストップでスパーリングを始め
その何本目かで俺も指名されたので、向かっていったのですが
もう、これでもか!!と、ガッチガチに完膚無きまでに何回も極めらに極められまくって・・
最後、その先輩は言いました。
「キミ、あまりにもガチ過ぎるよ。もうちょっと冷静に考えながらやらないと上達しないし、そして何よりガチ過ぎは怪我に繋がる」
、、あのぉ、それって人をガッチガチに極めたあとに言うセリフですかね
…と内心、思ってたんですけど(汗)
違うんです。この時の俺は分かってませんでした。
◼︎ガチスパーという概念《6/7》
っていうかスパーリングに「ガチ/ライト」っていう概念が存在するなんて、はじめて知りました。
それどころか、何やら「接待スパー」という概念も、存在するとか、しないとか…
そんなの今まで全く知らなかった。
…というのも、それもそのはず。
俺が今まで身を置いてきた練習環境というのは、高校レスリングではインターハイや国体を目指し、U-FILE練習会ではプロ選手と大学生レスラーしか居ない
その中では「普通」だったスパーリングのスタイルを柔術の道場に照らし合わせると「ガチ」という事に、なるそうなんです。
なぜなら、ここ柔術の道場には
女性からスポーツ未経験の中年、運動不足解消目的、孫もいる初老、会員さんの子供だって来ている
そんな場において、高校レスリングとU-FILE練習会の概念のまま、無自覚に暴れていたらそのうちに確実に怪我人が出る。
そういった要因もあるのでしょう
ブラジリアン柔術の世界には「ガチ/ライト」という概念が存在し
時折それについての論争も起こったりしますが、ここではそのどっちが、ああだこうだと言及する気は全くありません。
しかし、これだけは確実に言えます。
ライトスパー、接待スパーはある程度の技術がなければ絶対出来ません。
「ライトも出来る人のガチ」と「ガチしか出来ない人のガチ」は全くの別物です。
無論、入会初日の俺は「後者」という事になります。
あの夜、ガッチガチに極められたスパーっていうのは
そんな俺に対する先輩からの愛の警鐘だったんだろうなと、ホウキとも柔術が出来るようになった12年後の今なら、そう思います。
しかしながら入会初日の俺は残念なことに
「接待スパーも技術のうち、な?」とも受け取れる、先輩からのメッセージを感じ取れる技量なんか1ミリも持ち合わせていないので
スパーで切れたであろう口内の血の味とともに湧いてくる負の感情の全てに、懸命にフタをし、道場の隅で一人寂しく帰り支度をしていたんですけど
その帰り間際
「ガチ/ライト/接待」を、さらに大きく上回る
奇想天外な概念を耳にしました。
それは「週に何回練習しているか」
みたいな先輩達の会話から聞こえた
「週9」という単語
…ふぁっ?!
◼︎この人達、異常者だろ…!《7/7》
えっ…と。一週間って、
月火水木金土日
それ以外に何曜日がありましたっけ?
…って感じの(笑)
いくら青帯の先輩達が楽しげに見えるっつったって
いくらなんでも
週9回も練習したくはならないでしょう…
…もしかして、この人達、異常者(汗)?!
初日の練習を終えてみて
ある程度の予想はしていたもののブラジリアン柔術は全く楽しくなかったので、失礼ですが先輩の皆さん方が異常者に見えて仕方ありませんでした。
本当に楽しくなる日は訪れるんですか?!
血の味と、負の感情は押し殺して
セミが幼虫のあいだ土の中にいるみたいに、しばらくジッと我慢していれば
…っていうか、ここって本当に「土の中」という事で間違いないんですよね…?
結局のところ、先輩方が異常者で
一生分かり合えない壁が…
…みたいなオチじゃないですよね?
先輩方は「土の中」で幼虫の期間を経て、地上に出たという認識で間違いないですよね?!
もう、しつこいくらいの猜疑心しか生まない
そんなブラジリアン柔術・初日でしたけど
喫煙とオ◯ニーだけの人生なんか、いつだって転がり堕ちれるんだから
今度、新宿イサミに「マウスピース」を買いに行こう!と
口内の血を舐めながら代々木上原駅を後にしました。
余談ですが
初日に「ガチ」の説法を説いてくださった先輩が腰に巻いている「石田浩」と刺繍された青帯を譲り受ける事になるのは、これからもっと先の話
砂嵐みたいな景色は、これからもしばらく続き
「フ◯ラ市のスパーは危ない」
そう言われる日々が、しばらく続きます・・
つづく
次回「喧嘩みたいなガチスパーしか出来ない私と、白帯の仲間達による″逃げるは恥だが役に立つ″」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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