岡市 尚士
田村潔司先生と初めて出会った日 〜ついでに初心者チカラ抜けない問題も考えてみる〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第115話」
2005年1月某日
ここは神奈川県川崎市多摩区に所在する
″赤いマット″が敷き詰められた道場
そこで俺は上座を向いて正座していました。
目の前には同じく正座の田村潔司先生
本物です。
後輩/堅太郎の紹介により、ここに居るわけなんですけど(詳細は前回のこちらから)
その圧倒的な″赤いオーラ″がビンビン伝わってくるのと同時に
1月の寒気に支配された道場内には
「この人、誰??、、えっと、ファンの方かな?」みたいな
俺に差し向けられた冷たい空気感が漂っているのを、ビンビンに感じる、、
そりゃ、そうだ。
どう見ても格闘家風情には見えないからね。
どう見てもバンドマン風情のヤサ男ですけど
それでも、最近までバリバリの大学生レスラーだった堅太郎の後ろにいれば
しれっと、その場に入り込めそうじゃないですか。
″金魚のフン″として
だが、
その金魚の堅太郎がいない
いわゆる「ドタン場でキャンセル」というやつだ。
金魚がいなけりゃ
俺が何の糞なのか分からないだろう
俺は「ただの糞」としてU-FILE CAMPに放り込まれた。
さかのぼること、三時間前
1月だというのに卒業後の進路が決まっておらず
そのため「やっぱりU-FILFには行けません」と堅太郎からメールが、、
続けて「すいませんけど、俺の同期の小田という人間が行くはずです。なので小田にはちゃんと伝えておきますので!」
と言われてもだねぇ。。
その小田君だって、さっき出会ったばかりで
たった20分くらいの仲なので
道場内に流れるアウェー感を、どうにかしてくれるような関係性でもないでしょ
「いやぁ、同期の高校時代の先輩らしいんですけど。。」
と、小田君が精一杯フォローしてくれたとしても、その同期である金魚の堅太郎がそこに居なければ
俺は誰の糞なのかよく分からない、ただの糞同然である。
しかし第二次UWFで同期がおらず、長く孤独な下積み時代を経験した田村潔司先生なら
俺の今のアウェー感とか分かってくれるはず・・という想いが伝わったのかどうかは分かりませんけど
実際、田村先生はU-FILEの弟子だろうが、大学生レスラーだろうが、誰の糞なのか分からないバンドマンだろうが分け隔てなく接してくれまして
それが出会った初日だろうが、今現在だろうが変わらず「岡市くん」として扱ってくれたというのが今ならよく分かります。
そしてこの毎週火曜の昼に行われていた練習会のレギュラーメンバーというのは
田村先生をはじめとして
U-FILE CAMPの大久保一樹さん、中村大介さん(現/夕月堂本舗代表)
そこに専修大学レスリング部だった久米田典人さん、小田貴久さん(現/土佐塾高等学校レスリング部監督)、金森道さん(数年後パンクラスにてトイカツ道場の竹川君と対戦)
この方々をレギュラーメンバーとし、たまに他のプロ選手が参加するといった感じで行われておりました。
これはもともとU-FILE CAMPと近所である専修大学レスリング部に、田村先生が出稽古していた縁から生まれた練習会だと聞いているんですけど
当時の専修大学レスリング部の監督って
あの馳浩先生なんですよ。
なのでバリバリの「馳浩チルドレン」である専修大学レスリング部の面々を擁して
″スタンドレスリングに重きを置いたグラップリング″というスタンスで行われていた、この練習会って、今にして思えば
「赤いパンツの田村潔司イズム」と「黄色いパンツの馳浩イズム」が調合された、とてもハイブリッドなものだったんですよね。
だから俺の格闘技技術を形成する細胞のどこかには、確実に馳浩が組み込まれているんだよなぁ
なんて今こうやって呑気にiPhoneでぽちぽち入力してますけど
その「初日」は惨憺たる有り様でした。
数年後に綴ったmixi日記ではこのように回想しております。
田の浜のコンデコマの日記(2009/6/30)
田村潔司vs岡市尚士!!(スパーリング)
実力差はトラと猫くらい…笑?しかし、そんなの当たり前だっつーの!!ぶつかれ!俺よ!!
得意技といえばタックル・・しか無い!! ・・けど!!24年間の全てを込めて私は田村さんにタックルした…!!
・・・か、硬い!!例えて言うなら、停まってるダンブカーに思いっきりぶつかった感じ?
とにかく脚が硬いのだ!
…しかし言い訳無用!!ワタクシは何度も何度も、その鋼鉄の足に頭から突っ込んだ!!
だってタックルしか知らないんですもの
、、何かクラクラしてきた
このままでは脳しんとうを起こしてしまうかも……
・・・そんな時、時間に救われた!
田村さん 「ずっとガチガチだと疲れるでしょ~」
私 「はい…あ、でも…・・大丈夫です!!押忍!!」
この日2時間の練習を終えた私は真っ先にトイレに駆け込みリヴァース!!!!
(ほぼ原文まま)
、、と書いてある通り、あまりのハードさに練習後トイレに駆け込んで、ゲロを吐いてしまいまして
おまけにこの日は夕方からカクヤスの遅番だったんですけど、背中に鉄板でも入れられたんじゃねえか?ってくらい身体が動かなくて、全く仕事になりませんでした。
しかしこれは、先日投稿した長南さんに吉田道場のプロ練に連れて行ってもらった回と同じですね。
「自分で勝手にスタミナ切れを起こして勝手に自滅」しただけ
そしてmixi日記でも ″田村先生から「ずっとガチガチだと疲れるでしょ~」と言われた″ と回想してますけど
これと似たような話で「白帯の方、チカラ抜きましょう」問題として最近「しんたろさん」という方のツイートが話題になってましたよね。
でも、これって仕方がないような気もします。
その原因のひとつとして、技とかテクニック以前に
「闘い方」を知らないからっていうのもあると思うんですよね。フローチャートの選択肢が、ほぼ無いに等しいっていうんですかね。
俺の場合、田村先生と初めてスパーリングさせもらった時って
思考回路には、Aパターン「タックルで倒す」
それしか無いんですよ。
失敗したあとのBパターンが全くない
これで経験を積んでいけば
Aパターンが防御されたら、そのあとはBパターンとしての対応。たとえば「スイッチする」とか「身体を半身にして脚に絡む(ハーフガードにする)」とか
もしくは最初のAパターンが駄目なら
別のAパターン2として「猪木アリ状態(自分から寝転んで)」そこから派生するパターンでやっていくとか
自分から寝転ぶのが良しとされないのであれば、タックルいってもどうせ失敗するから、その時に寝転ぶとか
こうやって「自分と相手」「攻撃と防御」と「カウンター」を織り交ぜながら
壮大なジャンケンっていうか
A、B、C、D、E、、、とパターンを増やしていくのが「闘い方」であり寝技的なフローチャートだと思うんですけど
だけど当時の俺は田村先生に対し
「グー」に向かって、ひたすら「チョキ」を出し続けるようなスパーリングというか
とにかく「Aパターン」と「失敗」を繰り返しているだけで
それ以外の選択肢、Bパターン以降なんて思いつきもしない
じゃあ、どうするか
だったら、さらにチカラとスピードを強めてAパターンをやるしかないじゃないですか
「グー」に向かって「チョキ」をがんばり続けるしかないじゃないですか
、、っていう発想になってもおかしくはないでしょう。Aパターンしかないんだから、あとはチカラとスピードに頼るしか方法がない。
こんなんじゃ余計疲れて、脳に酸素いかなくなって「結果」思考回路を停滞させただけの時間にしかなりません。
あとは負けたくないと思う恐怖心
これも結構、大きいでしょう。これは無意識的に身体を硬直させるので、それなりにフローチャートが思い描けていたとしても、次の段階への進展を阻みますからね。
ちなみに「勝ちたいと思う勇気」とは全く別物だと思います。
この「パターンの無さ」と「負けたくないと思う恐怖心」
そのどちらも併せ持っている俺は、これから数年後、青帯になる手前ぐらいまでずっと「ガチガチだ」と言われ続けていたので
この初めて田村先生とスパーリングさせていただいた時っていうのは、とんでもなく相当だったんでしょうね。壮絶にゲロ吐くぐらいですから(笑)
ここでね。分からなかった人間に対して
「こういう場合はBパターン、さらにCパターンというのもありますからね〜」と、やってくれるのが一般向けの格闘技道場なんですよ。
それこそ入会を考えていた「アクシス柔術アカデミー」もそうです。
しかし″釣り針の付け方″から丁寧にレクチャーしてくれるかのようなアクシス柔術アカデミーと違って
この「U-FILE CAMP火曜練習会」っていうのは
いきなりマグロ漁船に乗せられるようなものなんですよ。釣り針の付け方すらロクに知らないのに
ここはスクールじゃねえんだ!下手したら怪我する荒れた大海原なんだぞ!っていう
そりゃあ80キロ以上の屈強な戦士達に、60キロくらいのバンドマンが混ざるって無理がありますって。体力的にも精神的にも、とにかく全部
でも小田君ら専修大レスリング組の同期である堅太郎の二学年上の先輩であるという、ちっぽけな面子と
カクヤスの同僚/柳沢から誘われたアクシス柔術アカデミー入会を取り下げた意地
それになんといっても子供の頃からのスーパースターである田村潔司先生と
まさか、お互い正座で向き合って挨拶して
そうやって始まったものですから。
俺にとって「こりゃ地獄のような2時間だ」と分かった上であっても
通い続けるしかないじゃないですか
こうして、それまでのバンド活動と、カクヤスのバイトの日々に
毎週火曜昼にU-FILE CAMP練習会の予定を加えて、2005年が始まりました。
つづく
次回「2005年、実家で弟から味合わされた柔道の強さと、いつまでも変わらない故郷″田の浜″の風景」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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