岡市 尚士
北岡悟「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第128話」
「くそったれの人生」
何をもって、そう定義するのかは難しいところですが
長渕剛がドラマ「とんぼ」の頃リリースしたアルバムで「くそったれの人生」と歌っているので
周りがいくら絶頂期と思おうが本人が「くそったれ」と思うのであればそうなんだろう、という定義の上で話を進めさせていただきますけど
前回「逮捕」において、俺をこんなに生きづらくさせている得体の知れない物の「正体」は、自己顕示欲や承認欲求を起因とした「もっとビックリされたい」という気持ちであり
そんな「他者からの評価」が唯一の生きる養分だったという事に28歳にして気付いたのは大きな発見だったにしても
しかし長きに渡るバンドマン活動で、全国発売したりツアー回ったり、全裸になりまくって、フ◯ラしたりして学んだのは
「もっとビックリされたい」って時価変動みたいなもんで到底自分の頑張りでコントロールする事は不可能であり
今後も「他者からの評価」だけを糧に生きるとなると、それはすなわち到底自分の頑張りでコントロールする事は不可能な人生になる。
というのは、もはや明確で
その末路は「本当くそったれの人生だったな!」と、どっかの火葬場で焼かれて終わる…
…でも、まだ28歳だ!
「もう28歳」かもしれないけど、一応まだ28歳だ
あとワンチャンスあっても良いだろう…?!
神様仏様どうかお願いです!
「他者からの評価」が関係ない生き方がしたいです!
…と願ったところで、今さら周りの同級生達みたいにパチンコみたいなセーフティーネットもなく
俺自身、近所の飲み屋界隈を渡り歩くようなパリピでもなく
恋愛も何故こんなにうまくいかないかね!ってくらい駄目だし
仕事っつったって「8時間を売って日銭を稼いでる」という意識の低さでコールセンターに勤める俺は仕事人間なんか一生無理だし
残ったものと言えば…
昭和アパートのヤニ焼けした部屋とシコティッシュ
その現実に
死にたくはないけど、死にたくなってる2008年、夏
そして、コーチガリー辞めたいって言って残留期間を設けられてから、そろそろ一年
辞めたら俺は岩手の実家帰るけど、このままだと
タバコの副流煙と精子を出すだけの叔父さんとして、凱旋帰国を果たすことになり
きっと「昔レミオロメンと一緒に出てたよ!」なんてクソダセー行為を垂れ流しながら生きる、 そんな 「くそったれの人生」が待ち構えてるに違いない…
だから、その前に
「他者からの評価」が関係ない「何か」が欲しい!
…てなわけで、精神的には干からびてカラッカラで、北京オリンピックには1ミリも感動しなかったこんな俺ですけど
明日から、また生きたいので
藁をも掴む思いで「キッズダンススクール」の入会用パンフレットを読んでます。
キッズ達に混じってブレイクダンス始めようかなって
オッサンだけど、キラキラ輝く子供達と駅前ステージとかでバシッと決めたら感動しそうでしょ?!
…そんな時、神風が吹きました。
カズ君が職場の上司から格闘技イベントのチケットをもらって、あと一枚余ってるから行かない?と
このタダ券が俺の人生を変えました。
◼︎戦極〜第四陣〜/さいたまスーパーアリーナ
さいたまスーパーアリーナをまあまあ埋め尽くした、この観衆の中で、きっと俺一人だけでしょ?この大会を観て人生が変わったのって
だって、俺の席にだけカミナリ落ちてきましたよ…!その落雷のショックで人格が入れ替わったみたいに、帰りの埼京線ではスイッチ入ってましたから
これはもう、過去のブログとかインタビューでも散々言ってますけど
「北岡悟vsクレイ・フレンチ戦」の31秒間。そして、その後の北岡さん勝利者インタビュー
とりあえず俺が観てきた作品の中では最高峰です。
それも心を動かされたとか、人生観が変わったどころの話じゃない。
もう人生そのものを変えられましたから
その理由は未だに分かりません。そして他の人がこの試合を観て、俺と同じように影響受けるかって言うとそれも分からない。
現象的なことだけで言えば、当時の総合格闘技の試合って観客目線からは、ストライカー寄りの選手が優勢(のように見えていた)状況下だった事もあり
北岡さんのその突出したグラップラーたる戦い方に、度肝を抜かれたというのも理由のひとつです。
まず開始早々、片足タックルに入って
「自分から下を選択」したという北岡さんの戦術に「タックル=倒す」の固定概念しか知らなかった俺は「え!何これ?」と驚く暇さえ与えてもらえず
あれよあれよいう間に下からコントロールし
はい!アキレス腱固め。31秒!ですから。
総合格闘技の試合において、こんなに分かり易すぎるグラップラーグラップラーした試合なんか今まで観たことないよ!!って
でも、あとからよくよく考えたら
伝説の「中井祐樹vsジェラルド・ゴルドー戦」だって下から攻めていた中井先生が最後はゴルドーの足関節を極めて勝ったグラップラーの金字塔みたいな試合で
ただ、あの時は開始早々の″事故″があり、ゴルドーのパウンドを散々食らったあとで、そして何より体重差も、ルールも違うので同一線上で語んな!という声も聞こえてきそうですけど
そんな先人達が築いてきた歴史で
レスラー、グラップラー、ストライカー、etc、様々なバックボーンのイタチごっこを繰り返して繰り返して洗練されてきた総合格闘技において
「結局、タックルをきれるストライカーが強いのか…」と思ってた所に現れた超新星!という感じで
一度も打撃戦になることなく下になり足関節を極めた北岡さんの、洗練された31秒にグラップラーの新しい可能性を感じ
そして試合後の勝利者インタビューでの、優しい人柄を隠せない内面が放つ渾身の「ドヤ顔」も相まって
全ハートを射抜かれた俺は「キッズダンススクール」のことなんかスッカリ忘れてましたね。
仮にもしも、もっと洗練されている現代MMAみたいに上を取り合うような展開ばかりが続く大会であれば、やっぱりブレイクダンスをやっていた可能性もありますけど
しかしこの日、北岡さんが放っていた輝きは、そんな技術的なものを遥かに超越しており、文章にするのが難しいんです。
先ほども述べましたが理由が未だに分からない。
それこそブルーハーツの「今にも目からこぼれそうな涙のわけが言えません」状態というか
ただ、ひとつだけ確実に言えるのは
「明日から、また生きるぞ!」とは、船木誠勝選手の有名なセリフですが
俺は、その船木選手の弟子にあたる北岡さんによって「明日から、また生きるぞ!」と
喫煙とオ◯ニーだけの人生になりそうだったところを救われた。
帰りの埼京線で「また寝技をやってみようかな」ってカズ君にボソッと溢してしまったあの日は
俺にとっての「北岡悟記念日」なんです。
そして偶然にも、これを書いてる今日、
12年前のあの日と同じ8月24日
13回目の「北岡悟記念日」なんです。
◼︎ブラジリアン柔術
北岡悟に影響されたのであれば、なぜ彼に弟子入りしてMMA(総合格闘技)やらないの?
…と、大した挫折もしたことのない青二才は、きっと思うでしょう。
違うんだよ。何も分かってねえな!俺も含めてだけどテメーらみたいな凡人は、北岡悟みたいには絶対なれないからな!
俺は、なれないのを自分でよく知っている。それは、今までの127話を読んでいただければ分かるように
北岡さんに影響を受けたのであれば、真剣にやってる北岡さんみたいになろうだなんて失礼なことは一切、思わない。
「自分は結局凡人なんだ」ということを、わきまえた上で、ソレ相応の向き合い方で、格闘技を続けるのが北岡さんに対する俺なりの礼儀なんです。
そして、もうイヤなんですよ。バンドマン時代みたく他者からの評価だけを糧に生きてきたハッタリみたいな人生は
これからは自己顕示欲も承認欲求も殺して、他者からの評価が関係ない生き方をしたい!
そのために喫煙とオ◯ニーに続く、自分を鎮めることの出来る「確実な技術」が欲しい!
そこで目をつけたのがブラジリアン柔術でした。
数年前、カクヤス時代の後輩/柳沢に連れていってもらったアクシス柔術アカデミーの体験で
レスリング貯金を活かし、フルパワー&フルスピード&闘争心剥き出しのフルコンボで向かっていった俺が
「ゴニョゴニョッ!」とやられて。いつのまにか捻じ伏せられていた、あの神秘のゴニョゴニョは
紛れもなくブラジリアン柔術の「技術」でしょう。
そんな「確実な技術」擁するブラジリアン柔術を学ぶということは
ハッタリじゃない確実な人生を送れる!という事なんじゃないかなと
ただ!
もしも万が一、柔術がものにならなかった場合、、
その時はいよいよもって人生終わりだからな!
タバコの副流煙と精子を出すだけの叔父さんとして、岩手の実家に凱旋帰国して「昔レミオロメンと一緒に出てたよ!」なんてクソダセー行為を垂れ流しながら生きる「くそったれの人生」になるからな!
そうならないためは
とにかく「柔術を辞めないこと」が一番大事だと感じ
ならば辞めないために、何が必要か考えたら
むしろ「要らないもの」の方が圧倒的に多く、そしてその根源にあるのは″欲″だという事に気づきました。
これまで俺を散々、苦しめやがった諸悪の根源です。
そこで、もう二度とバンドマン時代と同じ過ちを繰り返さないように、柔術を続けるうえで弊害になるであろう″欲″から派生する色んな事柄をピックアップして捨てることにしました。
・「自己顕示欲、承認欲求、他人からの評価」
バンドマン時代に苦しめられたコレ、一番要らない。自分が技術を身に付けて上手くなるのと全然関係ないですから
・「早く昇帯したい」という気持ち
なんだったら一生白帯のままでも良いですよ。そんなに帯欲しけりゃ、ちょろっと試験受けて、ハイ次の帯みたいな某競技にいけよって話で。そもそもハッタリの人生が嫌で、柔術の世界に来たんですから
・自尊心
スパーリングでやられても「テメーみてえな、喫煙とオ◯ニーだけのクズ野郎が何を悔しがってんだよ!」と思うようにしよう、って。どうせ大した人間じゃないんだから相手してもらえるだけありがたいと思え!
・手順を飛ばして我流に走る
やっぱり「俺は出来てる!って感覚に早くなりたい」ですからね。楽器だと上手い/下手の境界線がすげー曖昧なので、これが結構まかり通っちゃうんですよ。弾けているように聴こえるんだけどイマイチ上達しないのはコレが原因だったりします。だからレスリングとかU-FILE練習会の経験は全部捨て「俺は出来てる」なんて思わず常に自分を疑い続ける。
・努力、目標、真剣、覚悟、根性、忍耐、など
変な言い方ですけど、これがダメなら人生終わりだ!という悲壮な覚悟だからこそ、意識は低くありたい。一番大事なのは「柔術を辞めないこと」それだけは、何があっても忘れてはいけない。U-FILE練習会に参加していた頃の「死刑台に上がるような気持ち」で練習に向かう行為は滅びへの第一歩である。
頑張りたいから「頑張らない」を頑張りたい。
そんな感じで、とにかく欲という欲
全部要らない!
必要なことは、ただ一つ!
「確実な技術」
以上!それだけ
これを踏まえた上で、俺がトイカツblogに一番最初に投稿した「これから柔術や寝技を始めるにあたって必要な事」を読んでみてください(笑)
それでも、どうしても欲が出ちゃって、、仲々うまくいかないよ!という方は
逆に、真剣にメジャーデビューを目指して挫折して、腹いせにパフォーマンスでフ◯ラしてまた挫折して、それからまた入門し直すというのも、ひとつの手なのかもしれません(笑)
◼︎道場探し
「戦極〜第四陣〜」を観た翌日、早速コールセンターの仕事中にこっそりパソコンを使って
定期圏内である小田急線「新宿⇄登戸」の区間内で、ブラジリアン柔術の道場を検索したところ
「2件」のヒットが…!
そして奇しくも、どちらも″代々木″近辺の道場で
まあホームページとか道場ブログとか見てみて
もしも2件とも似たような感じで、迷うようであれば
同郷の大先輩/藤原喜明がかつて第一次UWFに参加しようかどうか迷っていた際に、新日本プロレス合宿所の食堂で箸を倒し「UWFだな…」と決めたエピソードを参考に、ボールペンでも倒して決めようかなと(笑)
そして、その2件のうち最初に開いたホームページは
「代々木八幡駅」最寄りの道場で。ここはMMAクラスも柔術クラスも万遍なくスケジュールに組み込まれており
イメージ的には、漫画「オールラウンダー廻」みたいな感じで、すげーキラキラして見えました!
まだ挫折を知らない夢や希望を持った若者が上京して格闘技を始めるならば100点満点じゃないですかね。
…ただね。人生崖っぷちの、すれっからしアラサーであるこの俺が、reversalのオシャレなラッシュガードを着込んだ意識高そう(に見えた)このキラキラした若者達や、モデルみたいに可愛らしい女性達も混ざってる、このファッショナブルなイメージの道場に入会したとしたら、、息が詰まらないかね?
柔術、続くかな…?
…出来れば、もう少し「余白」が欲しいのが正直な所というか、、
そして、残りのもう1件「代々木上原駅」最寄りの道場のホームページを開きましたら
まあ、先ほどに比べると簡素な雰囲気で・・
リンクに貼ってある「道場ブログ」を閲覧したところ
直近の記事に載っていたのは
「練習仲間が道場に忘れたファールカップ(股間を守るための器具)を顔面に被ったオジサン」の写真でした・・
それを見て俺は、
ボールペンを倒すまでもなく
藤原喜明ばりに「チーム・ホージャ・マシャードだな…」と心の中でニヤリと笑いました。
つづく
次回「チームホージャマシャード入会 〜まあ予想はしてたけどブラジリアン柔術は全く楽しくなかった〜 」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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