岡市 尚士

岡市 尚士

2020.08.18

逮捕 〜終焉に向かって〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第127話」

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古い友人が逮捕された。

2008年早々飛び込んできたそのニュースは、俺の人生に大きな打撃を食らわせました。

前回「わっかめん伝説〜27歳の闇堕ち〜」において、長いバンドマン生活の末に

映画「ジョーカー」よろしく狂乱の輩に豹変し

コンプライアンス/デリカシー/女性や子供への忖度といったものを徹底的に排除した下劣非道極まりない過激な集団「わっかめん」のボーカル・岡市として

生まれ変わったことをお伝えしましたが

その「わっかめん」が短命に終わった要因のひとつとして

冒頭の ″逮捕された古い友人″ こと

山田中学校時代の元クラスメイト鹿野の存在が挙げられます。

思い起こせば中二の頃、鹿野から借りたビートルズのCDがキッカケとなり俺はこの世界に来たんですけど

皮肉にも、始めたキッカケが鹿野なら

音楽を完全に諦めるキッカケも鹿野という・・

そして今回、偶然にも

その鹿野との出会いを綴った第27話「ビートルズ」(詳細はこちら)から数えて

ぴったり100話後の、第127話というミラクル

では始めさせていただきます。

◼︎蘇民祭

鹿野の逮捕は決して突発的に起こした事件によるものではありません。

まず、伏線となる「出来事」が起こります。

岩手県奥州市黒石寺にて1000年以上も続く伝統行事「蘇民祭」

奥州市によって作成された2008年版ポスターも例年に負けず劣らずインパクトのある出来栄え

しかし、このポスターに対し

「胸毛などに女性客が不快感を覚え、セクシャルハラスメントに該当するおそれがある」として

JR東日本が、駅構内での掲示を拒否した!

…そんなニュースが全国区で報じられました。

その数日後・・

「450キロ離れた東京でも…蘇民祭?!」

こんな見出しのニュースが全国を駆け巡りました。

「警視庁北沢署が公然わいせつの現行犯で、東京都内の無職男(38)3人を逮捕していたことが14日、分かった。

調べでは、3人は岩手県奥州市・蘇民祭のポスターの掲示をJR東日本が拒否した騒動について「祭りを規制するのはおかしい」などと酒を飲みながら盛り上がり

2月8日午前9時ごろ、東京都世田谷区北沢2丁目の小田急・京王井の頭線下北沢駅近くの路上を

テレサテンの「つぐない」を歌いながら全裸で歩くなどした疑い。

3人はすでに釈放されている。」

この3人のうちの一人が鹿野です。

しかもニュースを報じる防犯カメラが捉えた映像には

魔法使いみたいに、ホウキにまたがって商店街を歩く鹿野の姿が・・

これを「恥さらし」と思うか思わないかは人それぞれなんでしょうが

俺はハッキリ言って、悔しかったね!!

こんなに同級生全員を爆笑させる伝説なんて作れないですよ(笑)マジでやられた!!

◼︎短命に終わった、わっかめん伝説

この鹿野の活躍(?)に刺激を受けて、わっかめんのライブも暴走を続けました。

でも、こういう「観客をドン引きさせてやる」というスタンスは、すぐ壁にぶち当たりました。

結成当初は、みんな驚いてくれていたのが

それが半年も経つとライブハウス側も「今回はどんな事をやってくれるのか超楽しみですよ〜」みたいな

あれ?これって違うよな、って思いました。

だって、そもそも世間に忖度している「毒にも薬にもならない」のがイヤで始めたバンドなのに

今度は、毒にも薬にもならないのがイヤな人達が集う「こっち側の世界」に、忖度しようとしている自分が居ることに気付いたんですよ。

フ◯ラは誰もが予期していなかったからこそ、あの夜バズったのであって

それが予定調和と化してしまったのなら、もう価値はない

アントニオ猪木の提唱する「一寸先はハプニング」を本家以上に体現しているであろう、わっかめんの主将としては

この道を行けば

…あとはいよいよウンコ食うか、と

でも、たとえウンコを食ったとしても、それはきっとフ◯ラと同じで

一瞬はバズるけど、やがて予定調和化される

それを、所詮こんな狭い世界で無限ループしてたら、永遠に鹿野みたいな伝説は作れない

…と思ったら、ライブハウスでの活動自体が、すげーバカバカしく思えてきて

ていうか、そもそもね

何月何日って日程を指定されて、決められた入り時間に入って

リハーサルやって本番

はい!どうぞ!伝説つくってください

…ってアホくさいでしょ

真の伝説を作んのに、守られた空間なんか要らねえ

今すぐ、やれよ

そこら辺を歩いてるオッサンに、突然襲いかかって、フ◯ラして、殴られるくらいやれよ

、、なんて事を考え始めた日にゃ、末期です。

もう音楽を好きなのかどうかも分からなくなってて

干からびてカラッカラの精神状態でした。

◼︎このままだと俺は何かしらの事件を起こす。

わっかめんへ来るライブのオファーを断るようになり

表現者としてのスタンスを「その日に出会った人々の中で、一人でも多く『あの男なんだったんだ?』と、思い返してもらえるような毎日を心がけよう」と

パフォーマンスの場を、ライブハウスから日常へ…

更なる飛躍を狙ったんですけど

本当に、ろくな事がなかったですね。

それでもライブの打ち上げとか、大人数が集まるような飲み会がある日なんかは全然良いんですよ。

わっかめんの経験で広がったパフォーマンスラインと誰よりも目立ちたいという執念で、目的は簡単に達成出来ましたから

しかし、特に何もない日になると・・

元来、一人で飲みに行くようなタイプじゃないのに「何か」を探して一人で登戸の行った事ない飲み屋をフラフラして

どっかで揉め事が起きてたりすると、わざわざ首を突っ込んで

下北で飲んだ帰り、つまんない事で騒ぎを大きくして警察呼ばれてパトカー何台も来た事もありますし

そんな日々を過ごしたとしても、この内面から湧き出てくるマグマみたいなものは全然消えないんですよ。

とてつもなく、生きづらい

そんなある日、2008年の6月

「秋葉原通り魔事件」というのが起きました。

それが全然他人事には思えなくて。

動機は違えど「明日は我が身ではない」とは言い切れない

それにしても何で俺こんな人間なんだろうな、って

この「生きづらさ」の正体を突き詰めたら

ひとつの答えに辿り着きました。

◼︎喫煙とオ◯ニー以外の、精神的な拠り所が 「もっとビックリされたい」しかなかった事のヤバさ

これは贅沢な悩みであることを重々承知の上で話しますけど、現代の日本に住んでいて″衣食住″がしっかり確保された人であれば誰でも

精神的な拠り所って必要ですよね?

まあ中には衣食住だけであとは何も要りませんという境地に達してる人もいらっしゃるでしょうけど

でも大半の人が拠り所って絶対ありますよね。

たとえば家族、恋人とか

仕事に没頭する人も多いですし、高級車や高級腕時計などに注ぎ込む人もいる。

あとはアイドルを追いかけたり、スポーツ観戦とか、あとはゲーム三昧も良いですよね。

中には食に走って激太りしたり、パチンコや競馬などギャンブル狂になったりして、周りから色々言われる人もいますけど精神衛生上は絶対助かってますよね。

体重や借金が増えても、それで精神が保たれてるんですから。本人さえ良ければ良いじゃないですか。

でも俺の場合、そういった拠り所が

これまで人生を捧げてきたバンドへの体力(HP)が 0(ゼロ)になって

わっかめん「夢は叶わない」でも歌ってましたけど 「♪喫煙、オ◯ニーだけが楽しみだぁ〜」

それだけの状態に実際になってみて、そこで初めて、俺の精神をずっと支えてきたのは

「もっとビックリされたい」…しかなかった!!、、という事が判ったんですね。

それは、大スターになりたい!と「コーチガソー」を全国発売した時も「わっかめん」やってたのも、どれも同じで

今まで生きてきた全部に共通しているのは

承認欲求や自己顕示欲を起因とした「もっとビックリされたい」という気持ち。

よく子供が、周りに対してやる「ねえ、ねえ!見て!見て!」っていうアレです。

とにかく他者からの評価に飢えてる。

他の同級生達が、家庭持ったり、仕事人間になったり激太りしたり、ギャンブル狂になったり、そうやって人生と折り合いをつけて大人になっていく中

俺だけは、そのどれにも寄り道することなく

頑なに「ねえ、ねえ!見て!見て!」

それだけを30歳近くになっても、ずっとやっていた、このヤバさ。

これからの人生どうすんだ?っていう

もしもこの頃、迷惑系YouTuberっていう概念を知っていたら、ほぼ間違いなくやっていたと思ってます。

しかし長きに渡るバンドマン活動で、全国発売したりツアー回ったり、全裸になりまくって、フ◯ラしたりして学んだのは

「もっとビックリされたい」って自分の力でコントロールする事は絶対に不可能だ!ということ

仮に、これからもこのまま、そういう他者からの評価だけに人生を委ね続けていたら

近い将来、俺は確実に

人生詰む

もしくは一生、他者からの評価に翻弄され続け、自分ではコントロール出来ない人生だった。で死ぬ

そうならないためには

喫煙、オ◯ニーに続く、他者からの評価が関係ない「何か」が必要なんだけど

今さら興味ある仕事なんかねえし、ギャンブルも興味がねえ、ゲームも興味がねえ、恋愛もうまくいかねえ暴飲暴食できるほど金がねえ

そして感受性が死んでいるせいか、もう何にも感動しない

そんな今、新しいことを見つける事がとっても難儀だ・・

、、いや!

ダンスがあるじゃないか!

◼︎ブレイクダンスやってみようかな。キッズ達に一人だけオッサンが混ざって(笑)

ブレイクダンスは小学生の頃「天才・たけしの元気が出るテレビ」の「ダンス甲子園」を観ながらマネしていたクチでして

あとナイナイ岡村隆史が番組で時折踊ってるのを見て「カッコいいな」って

だから、いつかやれる機会があればやってみたいって密かに思ってたんですよ。

そして、まだ倒立歩行とかバク宙が出来る身体能力も残ってる

そこで真っ先に浮かんだのが

これまでバンド練習などで使うことの多かった登戸のスタジオ「クラウドナイン」で行われている

小中学生達のダンススクール

薄汚い野心にまみれた俺らがタバコを吸ってる、その向こうの部屋で

あの子達、キラキラ輝いてたな…

あの中に混ざって踊ってみたい(笑)!!

みんなと一生懸命練習して、駅前イベントのステージとかでバシッと決めたら、めっちゃ素敵じゃないですか!別に誰からも褒められなくても感動しちゃいそうなんだけど!

こんなオッサンじゃダメですかね(笑)?!

それにダンスなら岩手県に戻ったあと一人でも続けられそうだし

…と、仕事帰りクラウドナインに寄り、もらってきたダンススクールの入会案内パンフレット

アパートに帰って、ココロ躍らせながら月会費とか、レッスン内容とか熟読していた

その夜・・

当シリーズではおなじみのカズ君の職場で

こんなやり取りがありました。

カズ君の上司「あのさぁ佐々木、今度の日曜ヒマ?

格闘技イベントのチケットもらっちゃって

あと2枚余ってるんだけど行かない?」

運命とはなんぞや

ヤニ焼けした部屋の中

パンフレットを読むのを一旦やめ、オ◯ニーしてる時の俺には

カズ君と上司の、そんなやり取りはもちろん

まさか俺の人生が

今、オ◯ニーのため読むのを一旦中断しているダンススクールのパンフレットではなく

カズ君の上司の言う「余ったチケット」のうちの1枚によって

大きく動かされるなんて…

済んで、ティッシュをササっとやってる時の俺には、知る由もありませんでした。

つづく

次回「北岡悟」←読めます。

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この記事を書いた人

岡市 尚士

岡市 尚士

ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。

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