当たり前ですが人は生まれる時代を選べません。

そして生きた時代によって目撃するものや受ける影響も変わります。

ウチの親父がベンチャーズ好きなのも、ウチの息子がセイキンヒカキン兄弟の動画を熱心に観てるのも

時代のせい

俺が約30年前のキョンシーブームに影を踏まれて動けないまま38歳になってしまったのも

また時代のせい

まあキョンシーブームといってもたった2年にも及ばない短期間だったので世間的には「ああ、そんな事もあったな」ぐらいの現象だったと思うんですが。

しかし運命とは何とやら

ウチの両親は結婚後しばらくは子宝に恵まれなかったそうですが、もし子作りがすんなり成功して、あと数年早く生まれていたら…

俺はきっとキョンシーなんかさっさと解毒してもう少しマトモな人間になってたと思います（笑）

そんな運命の悪戯により。俺は小学校1年・2年という多感な時期キョンシーに遭遇する事になりました。

それはもう一大センセーションでしたね。

後年、初代タイガーマスクやセックス・ピストルズの存在を知りますが。それらが短期間で巻き起こしたのと同じくらいのそれを小学校1・2年頃の俺は浴びたと思います。

1987年（昭和62年）TBSで大爆発したこのブーム

もともと最初に着火をした人物というのはジャッキーチェンが幼少期から寝食をともにした兄貴分としてもお馴染みの名俳優サモ・ハン・キンポーと云われております。

俳優のみならず監督しても活躍していたサモハンが、1930年代の香港映画界にはすでに登場していたとされる中国妖怪｢キョンシー｣を題材にして、80年代前半に発表した作品達は｢サモハン・ホラー三部作｣として、一部映画ファンのあいだでは知られた存在でした。

ところが、その第四弾作品霊幻道士が、香港、台湾、日本の映画館で、それまでを凌駕する大ヒット

そのヒットを受け｢霊幻道士シリーズ｣として2、3、etc…とナンバリングされる事になった一連の流れこそキョンシーブームの先駆け的現象といって間違いはないでしょう。

この霊幻道士の大ヒットを受け、香港と台湾では類似キョンシー映画が大量生産されました。

その中の一作品でしかなかった「幽幻道士」がまさか本家を凌ぐほどの人気で日本全土を席巻する事になるなんて本家・霊幻サイドからすれば、わざわざ似せた邦題まで付けやがった上に売れやがって！って感じでしょうが二番手の思惑は見事にハマります。

いわゆる｢テンテンが出てる方｣こと幽幻道士は、大手配給会社がバックについている霊幻道士とは違って、日本では公開すらされていない無名映画でしたが

そんな無名ならではの利を存分に生かして独占に成功したTBSが1987年（昭和62年）1月12日に放送したところ、これが予想を大幅に上回る大反響

それまでは映画館か専門誌に手の届く｢中心部に住んでいる人々｣だけの特別な存在だったキョンシーが

テレビの電波に乗って日本全土の各家庭に届けられ

それを先導するTBSは続編｢幽幻道士2｣、出資までして制作した｢来来キョンシーズ｣（ドラマ全10話）と、立て続けに放送し思惑は見事にハマります。

これにより、どんなクソ田舎の僻地に住んでいようがその存在は我々ハナタレ小僧共に平等に知れ渡ることになり一億総キョンシー化現象となりました。

世間一般でいうキョンシーブームの始まりです。

それに伴い、他テレビ局もTBSに負けじとキョンシー映画の放送を繰り返しました。無論、本家｢霊幻道士｣もその消費戦争の渦に巻き込まれてしまいます。

霊幻道士と幽幻道士を混同して認識してる人が多いのは、こういった背景も一因としてあるでしょう。

「霊幻道士」

「幽幻道士」

この霊幻道士、幽幻道士以外にも、各テレビ局はこの2作品と関連性の強い「幽霊道士」「再来キョンシーズ（ドラゴンキョンシー）」「カンフーキッド」「新・桃太郎」といった、割とお金のかかってる作品から三流のインディーキョンシー作品まで、ほぼ毎月のように放送し続け

わが山田町のレンタルビデオ屋｢ササキデンキ｣（前記事参照）には雨後のタケノコの如くキョンシー作品が増え続けました。

ここ田の浜みたいなクソ田舎の〇〇商店ですらキョンシーのお札を入荷しているほど、どこ行っても馬鹿の一つ覚えみたいに関連グッズが置いてあり

TBSで放送されていた幽幻道士のスピンオフ連続ドラマ「来来キョンシーズ」の主題歌「キョンシー！」は作詞・松本隆／作曲・細野晴臣という豪華っぷり

学校でも放送翌日はキョンシーごっこが発生してすごく楽しかった。

それでも同級生のみんなはファミコンに熱中したり、野球とか習い事諸々を始めたりと、他のコンテンツにも満遍なく成長しているのに俺はジャッキーチェンとかキョンシー以外に一切興味が持てなくて

学校から帰ると、そんなんのビデオばっかり観てて、一緒に住んでた祖父祖母はウンザリしてました（笑）

そんな偏向少年の俺でしたが、たったひとつだけ

「これやりたい！」って強く惹かれたのが

｢カンフー｣

ほらキョンシー映画って、そのほとんどが香港・台湾アクション映画の流れを脈々と受け継いでるものですからカンフーの使い手がたくさん出てくるんですよ。

ジャッキーチェンからの憧れもあり

猛烈にやってみたかった。

でもそこはさすがウチの親

言ってみたところで「ここらへんでやってる所なんかある訳ねえ」という絶望的な答えしか返ってこない。

やはりここ田の浜では俺のやりたい事は出来ない！

テレビの中にしか救いはない！

と、8歳の俺は途方に暮れました。

しかし、ずっと味方だと思っていたそのテレビですら少年の心を裏切ってしまうほど残酷なのが人生

1988年（昭和63年）10月10日に放送された｢幽幻道士4｣を最後に、ブームは徐々に衰退してしまいます。

俺の二年間が…

なんやったんや、この二年

今さら同級生達みたいに野球とか出来ないし

ファミコンも弟に負けるくらいヘタだし

ただキョンシーに詳しくなっただけの二年間だった…

しかし心配はいりません。

もう｢そうなるしかない人生｣になっていきます（笑）

そして｢その日｣は早々に訪れました。

それは終焉の｢幽幻道士4｣から半年ほど経った1989年（平成元年）3月7日の早朝

新聞のテレビ番組欄に伝説の映画を発見した事から始まります…

つづく

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