岡市 尚士
プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで 第44話「新しい人生」
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レスリング部を離れ
始まった新しい人生
あんな騒動を起こしたのに、上野先生の寛大な処置のおかげで退学処分にならずに済んだので
住む家、行く高校は今までと同じなんですけど
生活はそれまでと180度変わりました。
た、楽しい!
朝起きるのも、メシ食うのも、学校行くのも
そんな日常すら楽しい!…って思えるほど、それまでどんだけ精神的に憔悴してたんだよっていう(汗)
そして、宮古商業高校は女子生徒の数が圧倒的に多いもんですから女子達のノリが良い
だからビーバップジュニアハイスクールこと山田中学校仕込みのトーク内容を「1/10くらいに薄めた会話」でもめちゃくちゃ楽しかったし
脱走したこんな俺でも人生を楽しんで良いんだなって
入学直後、レスリング部の練習中にラジカセからヘビーローテーションされてた安室奈美恵「Don’t wanna cry」がトラウマソングなのに対し
脱走とほぼ同時期にリリースされたPUFFYのデビュー曲「アジアの純真」は希望に満ち溢れていました。
肝心の学業の方はというと
もちろんダメダメ
そもそも宮古商業にはレスリングをやるため入学したようなものなので、商業なんか別に学びたくもないんですよ。
だもんでレスリングをやめた今、俺が商業高校にいる意味なんてあるのかなと
でも学校には来なさいと言われているからには興味はなくてもやるしかない。
でもなんだよ、この簿記って!
簿記の授業中はいつも眠くて
勃起ならよくしてましたけど
しかしそんな俺の後ろで、勃起なんかせず
ちゃんと簿記を勉強している男がいました。
名を小堀内マサフミと言いました。
高校入学後、目が死んでいた俺に一番最初に声をかけてきてくれたのが彼です。
彼はスーパーマンでした。
あなたの周りにもいませんか?
スポーツ万能、勉強もそこそこ出来て、家も金持ち、まずまずの容姿端麗で、オシャレに敏感で、要領よくコミニケーション能力も高い
そんなタイプ
大げさな、と思うでしょうがマジです。
俺は当時50メートル走を6秒2で走りました。まあまあ速いでしょ。
でもマサフミ君はそれを上回る5秒台
俺が走り幅跳びを6メートル台で跳べば
彼は7メートル近く跳ぶ
アームレスリング競技者として頻繁に大会に出場して好成績を残してる腕相撲はもちろんクソ強い
そして俺が昨年、修学旅行で買ってきた「赤耳付き」のジーンズより遥かにレアなビッグEのリーバイス501を彼は持っていた。
こりゃ勝てねえ
でも、そんなスーパーマンの彼は俺にとても良くしてくれて、レスリングを辞めて時間に余裕が出来たので頻繁に彼の家に泊りがけで行くようになりました。
彼の出身中学は「津軽石中学校」といって宮古市の一番南に位置します。
山田町から国道45号線を北上して、宮古市に突入した一番最初の地域
そしてこれは日本全国、どこの高校でもあると思うんですが、高校で新たに仲良くなった奴って中学時代の友達を連れてきません?
マサフミ君も俺のところに連れてきたんですよ。
「おもしろい奴がいる」と中学時代の友達を
そして現れたのは
隣のクラスの大森芳徳(よしのり)という男
名前の芳徳の、徳の字が「とく」と読めるから、みんなからトクと呼ばれていました。
スーパーマンの言う「おもしろい奴」ってどんなんだろう?と楽しみにしていた俺は正直、面食らいました。
マサフミ君が連れてきた大森芳徳ことトクは
スーパーマンが連れてきたのが疑わしいほど
「スーパー凡人」のオーラを身に纏っており
…ていうか凡人は、オーラを放たないので
無オーラでした。
どこかしら馬を彷彿とさせるルックス、背は高いけど決してスタイルが良いとは言えない座高と股下の比重
もちろん、そんなこと初対面の人に言えるはずもないので、しばらくは学校内でトクと会った時は作り笑いで接していました。
しかし珍現象が起きます。
いつしかクラスメイトであるマサフミ邸よりも
トクの家に行く頻度が増えてきたのです。
そんなトクとの架け橋になった最初のキーワード
それは「プロレス」でした。
トクはワールドプロレスを毎週ビデオに録画して観るほどなかなか熱心なファンで
脱走の前後、プロレスとも距離を取っていた俺に最近の新日本事情、特に今ジュニアがアツい!と
今年のベストオブザスーパージュニアの結果(優勝・二代目ブラックタイガー、準優勝・ライガー)と共に語ってくれました。
実際に、このあたりからライガー世代 vs 金本浩二、大谷晋二郎、高岩竜一の6人タッグが名物になりジュニア黄金期と呼ばれ始めます。
しかし別に、実家でも観れるプロレスなんか
架け橋のほんの序の口にすぎませんでした。
トクの部屋には
これから始まる青春時代を
興奮させるには充分すぎる材料がありました。
THE YELLOW MONKEY
まあ、時代が時代なので別にトクの部屋じゃなくてもイエモン好きにはなったとは思います。
けど単価の高い同級生っていませんでしたか?好きになったものを簡単にコンプリート出来てしまうような
トクが正にそうで。まあ兄弟のいない一人っ子というのも背景にあったとは思いますが
大森家におけるトクの単価は高かった。
「JAM」がヒットして「SPARK」が発売された当時イエモンって、すでにアルバムを5枚も出している状況だったんですが
トクはこの1996年夏の時点で、イエモンのアルバムをファーストから全部持っており、ビデオもPV集からライブビデオまで全部フルコンプリート
昔からのファンがデビュー時から追いかけてきたのと同等に匹敵するイエモンに関する情報量がトクの部屋にはありました。
もしもこの部屋に来てなければ次男の名前にイエモンにちなんだ名前をつけようかギリギリまで迷うほどに影響は受けなかったんじゃないかなと思います。
そして、この部屋には本当に人がよく集まりました。
それはプロレスとかイエモンとか関係なく
まるでトクを中心として小惑星が広がるように
人が人を呼んでくる。
マサフミ君が俺をトクに紹介したように、俺ものちに田の浜の友達とか連れて行くことになるし
この部屋で簡単なネズミ講ビジネスでも展開したら、もしかして成功したんじゃないかな?ってぐらい人がよく集まる部屋でした。
スーパーマンだろうが、脱走犯だろうが、ヒエラルキー関係なしに
そんなトクの魅力ってなんだろうなって考えると
行き着くところはやっぱり人柄なんでしょうね。
クチを開けば「昨日は何回****した」だの
泊まりに来た友人が寝てる横でギルガメッシュナイトで平然とフィニッシュ
異常に散らかった部屋から埋もれたシコティッシュが発見されるのは日常茶飯事
****のし過ぎで右手の握力だけ異常に強かったり
スーパー凡人どころか、本当にどうしようもない男なんですけど
だからこそ周りの人間はそんなトクに魅力されたのでしょう。
実際、一緒に居て、すげーラクだし
これを周りに思わせる事の出来る稀有な人間ですよ。
でもやっぱトクの家に行くようになった最初のうちはそんな多くの人間が出入りする空間ですから、慣れるのに大変でしたけど
それに津軽石の人々からしたらトクの部屋っていうのは中学時代からの主戦場だったわけですから
そこに突然、外来種の俺が現れて
「誰この人?」ってなりますよね。
だから最初の何ヶ月かは仲介人のトクを挟んで、部屋が緊張の雰囲気に包まれることが多く
そして時として、単独アウェイの俺に対して明らかに「からかってやろう」みたいな空気を出してる輩もいるわけですよ。向こうは複数人で来る事が多いから
そんで今日もそんな輩達が来たんですね
トクの中学時代の同級生が
ピンポンも鳴らさず「お邪魔します」も言わずに
勝手にズカズカと二階の部屋まで上がってきて
ヘラヘラした同級生1号、2号の二人組
そんで、その2号の方が
初対面のくせに軽口を叩いてきたんですよ。
「君はさ、一日に最高何回****したことあるの??」
つづく
次回「同級生2号」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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