岡市 尚士

岡市 尚士

2021.12.10

俺の人生にも一度くらい、幸せな時があってもいいだろう「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第174話」

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「俺の人生にも一度くらい、幸せな時があってもいいだろう」とは

デビュー後、長らく不遇の時代を過ごした長州力が
「かませ犬発言」から数ヶ月後の昭和58年4月3日、

蔵前国技館にて藤波辰巳からWWFインターナショナルヘビー級王座を奪取したあと控え室で語ったとされる言葉なのだが

このブログのラスト2のタイトルとして引用したいとずっと前から計画していた。

まあ発言の主である長州力はその「幸せな時」を以降も次々と築き上げ、更新していく事になるのだが

俺の場合は、2016年7月24日(日)を最高到達地点としこの2016年が生涯最高のピーク年だと断言できる。

2月、全日本マスターズ優勝
5月、全日本ノーギ/エキスパート優勝
7月、全日本選手権優勝→黒帯昇格
11月、次男誕生

記録も凄いが、それ以上にあんなに自分を追い込む事なんかもう一生ないだろう。というほど追い込んだ。

特に全日本ノーギが終わり、全日本選手権の申し込みが始まってから本番を迎えるまでの二ヶ月間。

いち早く全日本へ出場する選手の情報をチェックしたつしまさんからの「お前、今年ヘタしたら優勝できるかもしれないぞ」という一言から″それ″は始まった。

てっきり、昨年2015年の全日本選手権/決勝戦こそが俺の生涯で最高到達地点だなと結構満足していたため今年の期待なんか全くしていなかったのだが

それは実際にエントリーリストを確認してみたところで変わらなかった。

たしかに、今年の茶帯ライトフェザー級の顔ぶれは、誰が勝っても負けてもおかしくない拮抗した横一線の精鋭達が出揃っている。

しかしその中で簡単に勝てるほど試合は甘くないことなんか嫌というほど味わっている。勝てると言われた試合をこれまで何回も落としてきた。

それはやたら圧をかけてくる期待してくれてる つしまさんだって重々承知の上だろう。

じゃあ試合で勝てるための練習を、と言ったとて俺は試合があろうがなかろうが日々自分の闘い方を疑いながら修正箇所をいつも探しており、スパーリングでも休憩はあまり挟まないため日頃から良い練習は出来ているつもりでいるので

だからこそ最悪なのだ。

良い練習出来ているつもりでいるのに、ここぞという時に勝ちきれねえんだもの。今度の全日本だってポカしそうな予感が漂ってくる。

「ロッキー」シリーズみたいに試合前の苦悩、からの閃きで丸秘特訓が降ってくれる事なんかもちろん無い

じゃあ、どうすれば良い。

行き着いた答えはシンプルだった。

「もっと追い込むしかねえ」

そのためには人間としての負の感情は捨てなければ。

俺は操縦士。この身体は脳からの命令に従って動いてもらうだけのロボット「疲れた」「シンドイ」などという感情なんか持たない。

しかし現実問題

この身体はどうやったって人体。

そして多少なりとも追い込んだ事のある人なら分かると思うのだが人間の身体は許容範囲を超えると、どこかが悲鳴を上げるように出来ている。怪我だったり、どこかしらに何かしらの症状が出る。

弱点のアバラはこの時期は幸い調子が良かったのだが

「吐き気」というカタチでそれは現れた。

毎回の練習で吐く寸前まで込み上げてきて、トイレに間に合わずマットにこぼした事も何回かある。

最悪だったのは合同練習会でポゴナクラブジム渡辺兄に、毒霧殺法よろしくクローズドガードからのゲロを浴びせてしまった事まである。

ここまでやってんのに!

勝利の女神は平気で裏切る。

練習で成功すればする程「なんで試合だと上手くいかねーんだよ!」となるから

練習すればする程、気が狂いそうになるスパイラル。

仏様、お願いです!

良い試合をする気なんかこれっぽっちもありません。どんなにしょっぱいと言われようが

どんな手段を使ってでも俺は勝ちたい…。

はー…、もう柔術が嫌いになりそうだ。

こんな状況なのに、つしまさんは毎晩のようにLINEを送ってきてはエントリーリストが更新される都度余計なプレッシャー激励してくれるし

もう分かったから!その圧ヤメて! oss頑張りますと返信はするけどね、あれは心臓に悪い。

そんな気が狂う寸前の二ヶ月を過ごし

迎えた大会の前日。

初戦・阿部宏司(草柔会岩手)

俺はもう考える事をやめた。

この神経に何かが1ミリでも触れたら、きっと俺は粉々になってしまうだろう。

前日はたしかエリック・クラプトン「アンプラグド」の曲達をギターで練習しながら過ごした。

ギター楽しいわ。

そんな決闘前日を、俺と分かち合った阿部さんは

「刃物で身体を八つ裂きにされる夢」を見たという。

というか、そもそも

そんな思いをしてまで

我々が闘いたい理由は何なのか?

それは柔術に限った話ではなく

我々人間はなぜ、こじらせるのか

なぜ、やらかしてみたくなるのか

俺自身も比較的ゆるい家庭に、健康体で生まれ

充分な愛情で育ててもらったのに

それなのになぜ故郷を捨て、飛び出そうとするのか

いまいち人生が腑に落ちない組のツラなんかして

バンドに手を出してみたり

何でもないような事が幸せだったと後悔したり

格闘技ジムに通ってみたり

いくつになっても世間にかまってほしかったり。

この2016年7月24日、全日本選手権で優勝し

MEWE山崎会長から黒帯を巻いてもらったあの時の、目からこぼれ落ちそうな涙の理由なら分かるけど

人生をこじらせてきた理由は

174話を書き終えた今も言えません。

今日も明日も明後日も

どうせまたこじらせ続けて

何かを探すでしょう。

こんな自己陶酔ブログに

ずっとお付き合い下さいました

こじらせボーイズ&こじらせガールズのみなさま

アンタらの事は一生忘れん!

約三年間ありがとうございました!

つづく

次回/最終回「遺言」←読めます。

あとがき/こんなブログを第一話から毎回欠かさずにずっとシェアしてくださったMEWEの先輩・牧さん。そして高校レスリング部時代からの盟友・横田君にはディープキッスしたいくらい感謝しています。

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この記事を書いた人

岡市 尚士

岡市 尚士

ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。

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