岡市 尚士
再興に向かってのこの期に及んで、なに柔術がやりたいだなんて吐かしてんだよ俺は〜瓦礫上で渡されたブラジリアン柔術紫帯〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/159話」
「前記事/死 」
被災してから二ヶ月近く経ったGW明け
ここ消防団分団所の大広間は静寂に包まれていた。
先日、電気や水道などのライフラインが復旧してからというもの一人、また一人と、消防団員達は次々と、自宅や親戚宅に戻っていき
とうとう俺一人だけになってしまったのだ。
まあ厳密にいうとあと一人。先輩ケンさんが俺の隣でナツメ電球に照らされて寝息を立てているのだが
しかしケンさんの場合、奥様の実家が生存地帯にあり子供達もみんなそこに居るため、行こうと思えばいつでもここを離れられる状態にある。
それなのに、最後の一人になってしまう俺を気遣ってなのか、それとも奥さんの実家よりここの方が気楽なのかは分からないが
いずれにしても状況は変わりつつあるのは明らかだ。ここ数日で″出勤″する団員もめっきり減った。
瓦礫に関してはもう重機にバトンタッチして、我々はそれぞれの生業再興に向かうフェーズに入ったのだということを「しーん」としているこの大広間に鳴っているケンさんの寝息が物語っている。
あの騒がしい集団生活は、もう終わったのだ。
さて、これからどうやって生きていこうか。
どうやってって
そりゃあ再興に向けて以外なにがあるのさ、という事なんか誰でも分かる。
しかし、全く情けない話だが、要するに俺は
再興に向けての気力のようなものが、これっぽっちも湧いて来ていないのだ。
休漁期間中での震災だったため書面契約は切れているとはいえ元々は四月からまた船に乗る予定だったので口約束上、俺はまだ佐々木漁業生産組合の一員だ。
しかし、この果てしなく雄大な瓦礫や海上をキレイにして漁が再開されるのは、いつになるだろう。
それまで歯を食いしばってみんなで頑張って、何とか漁を再開させたい!という情熱が
申し訳ないが全く湧いてこない。
残念だけど、俺の漁業に対する愛情なんてこんなもんだったんだろうな…
…いや、そんなのみんな一緒だろうが!!
みんな生きるためには、そうするしかねえから泣き言も堪えて黙々と動き始めてんだろ!!バカ!!
そんな田の浜の人々の声が
橙色のナツメ電球の周りをぐるぐる浮遊して聴こえてくるようだった。
そのくせ再興には関係ない欲だけは湧いてきやがる。
柔術がやりたい。…っていうか、
もっとやりたかった。
何を隠そう、俺はこのGW中
ブラジリアン柔術紫帯に昇格した。
休み中、代々木フォレスト御一行がはるばる東京から田の浜までいらしたのだが、その滞在中に会長から
瓦礫上で紫帯を授与された。
単純にめちゃくちゃ嬉しかった。
当時、紫帯はアカデミー代表者として登録の出来る「柔術の先生」を名乗れる帯だった。
しかも中々のスピード昇格である。本来、紫帯の前の青帯は最低2年は巻いておかなければいけないという基準があるのだが、俺はまだ青帯を巻いて1年と8ヶ月しか経っていない。
これは、しばらくは柔術が出来なくなってしまうかもしれない期間を見越しての会長なりの配慮だったのかもしれないが、柔術を嗜む者としては紫帯というのはかなり大きな到達点なのだ。
だからもう充分じゃないか。
バンドやるっつって東京出てスターにはなれなかったけどアルバム2枚もリリースさせてもらっただけでも充分な人生なのにブラジリアン柔術でも師範代に相当する紫帯にまで昇格した。
もう人並み以上に人生を満たしてるよ。
だからもう充分だよ。
これからは己の欲は抑えて再興メインに生きていけ。
ナツメ電球にそう問いかけられているようだった。
しかし橙色のボンヤリとした灯の中で、相対する思考のイタチごっこは中々終わらず
ますます俺を追い詰める。
「でも柔術の試合の思い出が乏しいよな」とも
試合の思い出といったら誰かを応援してるか、もしくはスタッフをやってる場面だけ。何かにつけて理由をつけ中々試合には出ようとしなかった。
何故だろう。多分得意になってきたが故に負けるのが恐くなってきたんだろうな。
負けても負けても試合があるとエントリーして帰り道気分良さそうに缶ビール飲んでたホージャマシャードおよび代々木フォレストの先輩達カッコ良かったな。
こんな事になるなら試合、沢山出ておけば良かった。
それでも勇気を振り絞ってエントリーした白帯、青帯時代のたった3大会で獲得した賞状と金メダルふたつが瓦礫から見つかれば、また心境は違うのだろうか?
再興に向かってのこの期に及んで
なに柔術がやりたいだなんて吐かしてんだよ、俺は
しかし、どれだけ熟考しようとも
どっちみち結果は同じ。
田の浜の現実は揺るがない。
逃れられない朝はやって来るのだ。
しかし、神風は吹いた。
数日後、瓦礫の上を歩いていると
携帯にメールが…
「ウチで働いてみないか?戸井田カツヤ」
つづく
次回「お前ら、いいか。負けて、逃げるんだぞ。わしらを裏切って逃げていくんじゃ。そのことだけはようく覚えておけ」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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