岡市 尚士
さらば東京〜帰郷すれば人生を清算できるんじゃないか?という幻想〜 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第140話」
「人生はどっちみち後悔するように出来ている」
それは田舎者として生まれた天命を一度捨てた俺が、二十代を都会で過ごし、得た教訓である。
華々しい都会でのバンド活動の裏側で、田舎の実家が離散状態になっていく過程に全く関与が出来なかったのは二十代最大の後悔でもあるんですけど
…かといって田の浜にずっと居続けたら居続けたで、バンド夢物語に挑戦出来ずじまいで後悔し続ける人生になっただろう
…ということは、俺の人生どっちみち後悔するように出来てたんじゃねえか(笑)もう笑うしかねえ!
っていう二十代最大の教訓だったんですけど
でも辛うじて離散した家族みんな生きている。
祖母は実家近くの「シーサイドかろ」という老人施設に入所中
そろそろ90歳。いつ死んでもおかしくはない年齢。
そんな祖母の死に目に及んでも、まだ都会に住み続けコールセンターに居たとしたら
おそらく一生、俺は自責の念に襲われる。
それも要因の一つとなって決めた地元・岩手県山田町船越/田の浜地区への帰郷
バンド末期に再開した格闘技のおかげで出来た居場所チームホージャマシャード、トイカツ道場のみなさんと離れることになるなんて、本当に後ろ髪を引かれる想いではあるんですけれども
その後ろ髪をギッチギッチに縛られて
8ヶ月、身動きの取れなかった元凶である社会的制裁こと「住民税滞納による給料差し押さえ」(詳しくは前回「東京でフリーターみたいな生活しながら、ただ柔術だけをやれていたあの頃が幸せだったなんて」)
その支払いが
2010年6月、ようやく終わった。
《全6項目》
◼︎佐々木漁業生産組合《1/6》
社会的制裁から解放されて久々に自由の海に放流してもらった途端、状況は目まぐるしく変化します。
それまで8ヶ月、保留になっていた漁師への転職話が「待ってました!」と言わんばかりに転がり始め
地元・田の浜オールスターズのみなさんによる口利きのおかげで、あれよあれよという間に話が進み
田の浜の「佐々木漁業生産組合」(通称・ナカ網」という定置網漁をメインの生業としている会社に採用が決まりました。
来月か再来月。東京のもろもろが片付き次第
田の浜に戻って定置網漁の船に乗る事になります。
東京にいる周りの人達には「いずれ地元に帰って漁師になります」とは、ずっと言い続けてたものの
あまりにもトントン拍子に話が進んだものですから
こういう時、職場のコールセンターなんかは突然俺が居なくなったとしても影響なんか全く無いんですけど
気がかりなのは「後任」が必要な組織…。
トイカツ道場のクラスとか
あとは頑固プロレスとか
◼︎頑固プロレス《2/6》
柔術を始めるよりもっと前の、U-FILE練習会時代
当時、練習仲間だった大久保一樹選手から「岡市さんバンドやっててプロレスも好きだから」という理由で誘われてスタートした頑固プロレスの音響スタッフ
それ以降、月一回。5年ほどやってみて分かったのは「バンドやっててプロレスも好きだから」という理由だけじゃ音響って務まりませんよ(笑)
ただ曲流せば良いっていう単純なものではない。
たとえば、CDって「再生」押してすぐ音が流れる曲と
「再生」押して〜3秒くらいでようやく音が流れる曲がありますよね。
「青コーナーより◯◯選手の入場です!」
→「再生」ポン
→ 3秒ほど無音
→ ようやく曲が流れる
この「無音」が気になるのか、ならないのか
ちょっとしたところなんですけどね。そういうところ
あと、興行って予期せぬことが多々起こります。
グダグダな空気をBGMが何とか持ち直してくれる場合もあるので、そこで変なタイミングで流さないように
そして殺伐としてしまった場面では、あえてそのまま殺伐とさせておいた方が良い場合もあって、そこでBGMに逃げずに無音を貫き通す勇気とか
そして、たとえ曲を間違えてしまっても、ブツ切りで停止なんかもってのほかで冷静にフェードアウトするのなんか当たり前
…こういった諸々ですね。
それらに気を配りながら、毎月音響をやってくれる人がいるのかなと
しかし突然決まった門出にもかかわらず頑固プロレスのみなさんは快く送り出してくれましたよね。
それは月/金の2クラスを担当していたトイカツ道場でも然りで、双方とも快く送り出してくれました。
しかもトイカツ道場の送別会では、有志を代表して
本房君から「TENGA」までいただいてしまって…
◼︎あの日のTENGA《3/6》
しかも、ただのTENGAじゃねえ
2リットルのペットボトル大はあるであろうサイズのビッグTENGAだ!
そして近未来的なデザインをしているため、パッと見TENGAには見えない。もしテレビの横に置いてあったとしても「洒落たスピーカーか、なにかかな?」と。きっとお父さん以外の家族は思うだろう。
しかも、開け閉めが出来て、水洗いが可能!
たしか50回くらいまでなら洗って繰り返し使える。
しかし洗ってる時、自分の事がとても嫌いになるので「ここぞ」という時にしか使えない。
東京を発つ前、本房君から授かったこのTENGA
今後、このブログのキーマンとなるので覚えておいて欲しい(笑)
◼︎血の入れ替え《4/6》
映画「シティ・オブ・ゴッド」のワンシーンで、麻薬を取引するための部屋があり、そこの主が殺されようが消えようが、この麻薬部屋だけは時代を超えて残り続けるという描写と同じように
ここチームホージャマシャードも同様、俺が去ろうが新しい人材は入ってくるもので
それはちょうど、社会的制裁からようやく解放されるかどうかの、ある日でした。
青帯取得から10ヶ月ほど経ち、代行で指導を任されることも増えてきたホージャマシャードにおいて
その日も先生方が不在で指導を任されたのですが
なんと今日、入会希望者が来るから対応よろしくね!いう事だったんですけど
現れた入会希望者さん
…き、筋肉ヤバくないですか?
たとえるなら筋肉ダルマっていう形容がピッタリの、見た目がヤバい新人さんが現れたなと思いつつ
テクニック指導では筋肉を活かせる分かりやすい技「キムラ」(柔道では「腕がらみ」と呼ばれる肩〜肘を極める技)を指導しまして
さあ、スパーリングでは筋肉ダルマさんを軽く揉んでやろうかな、なんて思ってたところ
…たった今、指導したばかりのキムラで
逆に、筋肉ダルマさんから一本を獲られる大失態!!
なんだ、この人…!!
さ、最初から、つえーぞ
あの、すいません。
名前もう一回、教えてもらってもいいですか…?
筋肉ダルマは言いました。
「マツヲです」
そう。何を隠そう
″タンクさん″こと松尾健史先生(東中野グラップリング/代々木フォレスト柔術クラブインストラクター)
柔術一日目の姿である。
今では界隈の皆さんご存知の存在となったタンクさんが柔術を始めて一番最初に会った人間になれたことは誇りです。羨ましがられるかどうかは別として(笑)
そして同じ時期、塙龍太郎先輩、荒川曜子さんの門下である「帝京医科大学」から柔道軍団が大挙として、道場に襲来いたしまして
その中で、″マスカキザル″という謎のニックネームで呼ばれていたのが
のちのパンクラシスト
杉浦弘幸選手(NEVERQUIT/代々木フォレスト柔術クラブ月曜インストラクター)である。
このタンクさんと、杉
この二人こそ、俺が岩手県に帰ったあと道場における雰囲気作り変態的支柱の大きな要となります。
これから10年…
血の入れ替えが全く出来ていない…。
ムードメーカー変態達の年齢層が上がっているだけの現状がいささか心配である。
そこの若き人材変態よ!コロナ鎮火後に来たれ!
◼︎さらば東京《5/6》
そんなホージャマシャードあらため代々木フォレスト柔術クラブにおいての血変態の入れ替えや
頑固プロレス、トイカツ道場での後任問題もようやく着地しまして
2010年8月下旬
十年にも及んで流した血、汗、涙、精子、そんな体液すべてが染み込んだ登戸を離れることになりました。
ちなみに帰る直前コーチガリー時代のメンバーであるケンゾウが作成してくれた送別会での動画が今でもWEB上に残ってます。
そして帰る時も、上京した時と同じ最安値/深夜バスというのが10年間の悲しきサクセスを物語っています。
たしか初めて上京した時は、バンドを組むことになる高校時代からの友人・キヨシが迎えに来てくれたな。
でも帰る時は、一人寂しく、か…
でもそれも悪くなかろう。
不思議と悲壮感は全くありませんでした。
漁師家系ではないが故の、恐れ知らずのおかげなのか妙なワクワク感に包まれながら、軽やかな足取りで
池袋駅西口バス乗り場に行くと
、、石田のアニキが現れた!!
◼︎アニキと抱き合った夜《6/6》
最近、道場名が「チームホージャマシャード」から「代々木フォレスト柔術クラブ」と改名されたタイミングで、所属先を「頂柔術」に移籍されていたため
最近では会う機会がめっきり減った石田アニキ
移籍前は週2で顔を合わせていたため、なんだか久々な感じがする。
バス出発時刻まで、まだ余裕があったため池袋駅西口付近の「かつや」でご馳走様になり
バス乗場まで一緒に歩くも出発まで多少の時間があり
…そういえば柔術入門初日は完膚無きまでにボコボコにされたな、でも青帯になるまで一番スパーしてくれたのはアニキだったな、俺が巻いている青帯もアニキのだし…
時間というやつは色々思い出させやがるもので
気がつくと人目をはばからず、出発前のバスのヨコで激しく抱き合っておりました。
周りには多分カップルに映ったかもしれません(笑)
しかし、無常にも時間は俺を迎えに来ます。
もう後戻りの出来ないバスに乗り込んで
窓越しにアニキと手を振り合い
名残惜しさに襲われている一方で
実は、半分ホッとしておりました。
実家に帰ることで
この宙ぶらりんの人生に終止符を打てる
「人生あがり」が出来ると思っていました。
しかし、皆さんもご存知の通り
人生に「あがり」なんかねえ
暗くて長いトンネルはずーっと続く
トンネルの奥に見える出口らしき光は幻想だ
田の浜に帰って新しい人生が始まるけど
暗くて長いトンネルはずーっと続く
俺はホントに愚かだ。
バンド仲間、登戸、コールセンター、頑固プロレス、ホージャマシャード改め代々木フォレスト柔術クラブトイカツ道場、見送りに来てくれた石田アニキ
そんな東京時代のすべてが
ホントに良かったよなぁ、とボディーブローのようにジワジワ効いてくるのに時間はかかりませんでした。
田の浜で新しい人生が始まります。
つづく
次回「拝啓、東京のみなさま。元バンドマン30歳、見習い漁師となった僕です。」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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