岡市 尚士

岡市 尚士

2020.11.19

″石田浩″と刺繍の入った青帯、そして引きこもりの格闘技マニアになっていた幼なじみ 「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第138話」

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ブラジリアン柔術の帯

それはこの地球上に存在する「帯制度のある競技」の中で、もっとも昇格が難しいと言われております。

帯色は全5段階(キッズ帯色、黒帯の段は除く)

「いや、青帯とか紫帯って言われても…どのくらいのレベルなのか全く見えない」と思ったであろうバンド関係者、岩手県の知人達、格闘技関係者じゃない方々のために超ザックリ説明いたしますと

ブラジリアン柔術の「青帯」は

「柔道黒帯/二段」と同等であると一般的には言われていたりします。

たまに、その事を知らない元・武道経験者だとかが「へぇー、キミ青帯なの?ボクね〇〇黒帯だよ」などと帯色マウンティングしてきたりする事象がおそらく世界各所であると思うんですが。それって、とっても恥ずかしい行為なんですよね。

小学6年生が高校2年生に対し「へぇー、2年生なの?ボクね6年生だよ」と言ってるのと同じですから。

ですので、ブラジリアン柔術の青帯以上というのは、お金払ってマニュアルに順った試験を受けて合格するみたいな他武道の黒帯と違って、確実に強いんです。

「達人」は言い過ぎだとしても、「使い手」ぐらいは名乗っても良いレベルなんじゃないでしょうか

そんな青帯に

「フ◯ラ市もそろそろ近づいてるかもしれないぞ?」とチームホージャマシャードの先輩達からよく言われるようになったのは

前記事「ネイキッドマン柔術からの刺客〜2009年春、ついに柔術でイッてしまった俺の柔術楽しい日記〜」において、リア充柔術家に華麗なる変貌を遂げてから間もない2009年夏頃でした。

《全7項目》

◼︎昇格していく先輩達のように試合に積極的に挑まなかったのは白帯時代の後悔《1/7》

2008年9月、チームホージャマシャードに入門以降、先輩方の帯昇格の場面には立ち会ってきました。

まず俺が入門して割とすぐ、塙龍太郎先輩が紫帯から茶帯に昇格

そして翌年2009年、ビッグプロモーションから始まり次々と帯昇格の波が…

まず ″アニキ″こと石田浩先輩が米国はLAで開催されたパン選手権において、なんと準優勝の快挙!!

青帯から紫帯に堂々の昇格!!

その石田アニキの帯昇格に呼応するように小林さん、アサミさん(変態パーティー「デパートメントH」の ″刺し師″)も紫帯から茶帯に

そして青帯時代に秒殺の山を築きまくった黒田先輩、俺の三角絞めのお手本的存在である酒井先輩の御二方も青帯から紫帯へ昇格

そして「フ◯ラ市も、そろそろ青帯見据えて何か大会に出ろよ」と言われるようになったんですけど

人はなぜ、不得意な物事に関しては失敗したとしても怖くなんかないのに、それが得意になってきた途端、トライする事に恐怖心が生まれてしまうんでしょうか

大会出場の勧めに対して、ビビって尻込みしちゃって俺、いいですわ。と

青帯になりたい気持ちも山々なんですけどねえ。でももしも負けたとしたら何だか余計、青帯が遠ざかってしまうような気がして

だから当分は白帯のままでも良いかなって

でも今にして思えば後悔ですよね。

単純に白帯時代の思い出が少な過ぎる。

どうせ死ぬんですから、やっておけば良かったなって積極的に挑まなかった白帯時代は後悔してます。

ただ、その反動で紫帯、茶帯時代は狂ったように試合に出まくったというのもあるとは思いますけど

◼︎TJ先生誕生祭《2/7》

来たる2009年8月18日

我々チームホージャマシャードの大師匠であるTJ先生の誕生祭が練習後、そのまま道場にて行われました。

そんな、めでたい日なのに一部ザワついておりまして

「今日は何かが起こる」と

それはきっと、道場飲み会では恒例になりつつある「ショー的な要素を含んだ何か」なんだろうなと

あ、俺によるね

この頃はすっかり道場にも溶け込み、わっかめん時代のソレのようなものを披露したりもしてましたので、師匠の誕生祭である今日っつったら、そりゃあもう、ハシャギ過ぎて軽度の靭帯損傷程度なら厭わないよ!って精神で代々木上原の駅を降りたんですけど

ザワザワする「何か」ってやつは

予想よりも、斜め後ろ70度くらいの鋭角なところから刺してきました。

前述のとおりパン選手権で準優勝して、すでに紫帯に昇格していた石田アニキが

御自身の使っていた青帯を、道場に寄贈するカタチでこのTJ先生誕生祭に持ってきたんですね。

「次、誰か青帯になりそうな人いたら」ってことで

そしたら会長が

「TJ先生どうですかね?岡市を青帯に」

TJ先生「うん、いいよ」

え!!!!!うそ!!!!

このタイミングで?!!!

…と、俺はこんなカタチで青帯に昇格してしまったんですね。


◼︎″石田浩″と刺繍の入った青帯《3/7》

この日から約2年。俺は″石田浩″と刺繍の入った青帯を巻く事になります。

青帯の頃、俺の腰元にいつも居た石田さんは柔術界で「アニキ」と呼ばれたりしておりますが

俺が呼ぶ「アニキ」には肉親者のソレに近い親しみが込められてると思ってます。

ですので今週末11月22日に静岡県富士宮市で行われる「グラップリング・デュオ」というタッグマッチ形式の大会に出るため石田さんがパートナーを探してると仲間内でなった時は一番に立候補しました。

この状況下において試合出る気なんか俺一個人としては全く無いんですけどアニキがパートナーを求めてるのであれば是非やらせてください!と

しかし今回は残念ながら仕事の都合が付かず!

またアニキが試合に出る頃合いを見計らって次の試合を見据えたいと考えてます。

スギ様!アニキをよろしく頼むぞ。

◼︎2009年のインバーテッドガード《4/7》

話を上記のTJ先生誕生祭に戻しまして

突然、青帯を授与されてしまったわけなんですが

柔術界では帯が昇格した際、みんなで帯で叩いて祝福するという「帯叩き」という儀式?があるんですね。まあ″悪しき風習″と云われ反対派も多数なんですが

そんな帯叩き、この青帯を授与された時には行われず

その代わり「ショー的な要素を含んだ何か」が代替案として、しめやかに執り行われる運びになりまして

気がつくと俺はインバーテッド・ガード(↓これね)の体勢を取っておりました。

俺自身をバースデーケーキに見立てロウソクを立てて師匠の齢と俺の昇格をWで祝うという極めてwin-winな考え方のソレは向後先輩の手解きで実行されました。

ディティールは割愛しますね。

見識のある社会生活を送っている方であれば↑上記のインバーテッド・ガードに対してロウソクが倒れないようバランス良く立てるにはどのようにしたらいいかの思慮分別はつくでしょうから

そして己のカラダの一部に祝福の炎を感じながら

体内から催しそうになってる生理的な不安要素と共に「柔術的な視点」でも一抹の危機感に襲われました。

…インバーテッド・ガードの体勢をキープするのってめちゃくちゃシンドい…!!

そして、この時の危機感を境に

以降の練習ではインバーテッド・ガードの体勢に一層の比重をおくようになり

それから二年後、新種の技「ベリンボロ」が柔術界に明るみになった当初、いち早くアジャストが出来て、一部からはベリンボロの使い手と呼ばれるようになるその裏には、このTJ先生誕生祭2009における

一連の「ロウソクムーブメント」が起因となっていることは言うまでもありません。

◼︎田の浜に戻りたい《5/7》

現在、柔術を始めて12年経ちますが

これまでの間で青帯を授与されたこの2009年8月18日が一番幸せだったかもしれません。

一年前まではバンドが無くなったら俺の人生は喫煙とオナニーだけだな。って腐ってましたから

それが、こんなに幸せを感じれる日が訪れるなんて

その日の夜は嬉しくて青帯を巻いて寝ました。

そして、ささやかながら夢というか今後の展望みたいなものも湧き始めていて

近々、田の浜の実家に戻ろう、と

そしたら、まず見習いとして漁船に乗らせてもらって古巣の山田レスリングクラブで子供達に教えながら、自分も柔術を細々と続けていけたら良いなと

もう東京でやり残したこと何もないし、柔術の青帯は授かりましたけど、格闘技で更に上を目指そうなんてこれっぽっちも思ってないし

10代の頃、地獄を味合わされた格闘技が「楽しい」と知れただけで、もう充分過ぎる東京での実績でしょ

この楽しみさえあれば、どこでもやっていける。

そして、子供の頃から毛嫌いしていた漁師なんですが

バンドを辞めて、お金が浮くようになったこともあり 2ヶ月に一回くらいのペースで帰省するようになったんですけど

田の浜に帰ると、数ヶ月前に行われたヒデの結婚式に列席していた面々がいつも居るんですよね。

10代の頃には全く交流の無かった、上の世代の先輩達で固められた田の浜オールスターズとも呼べる面々

そのほとんどが漁業関係者で

そんな田の浜オールスターズと、帰省のたびに交流を深めていくうちに

この人達と一緒に田の浜で働きたいと思うようになったんですよね。

新宿のコールセンターなんか俺の居場所じゃねえなと

そして田の浜帰省中に遭遇した

「珍しい出来事」も帰郷に拍車をかけました。

◼︎引きこもりで格闘技マニアになっていた幼なじみ《6/7》

田の浜帰省中のある夜、同級生数人で海辺に座って、一升瓶ラッパ飲みしてベロベロになっておりましたら

「ミッツ君」という同級生の話題になりまして

「わかき保育園」時代からの仲ではあるんですけど、優秀な彼と、そうではない俺らは、小中と学年が進むにつれ、同じ村に住んでいながら疎遠な仲になり

ここらへんじゃあ進学校である宮古高校を卒業した後の彼の消息は、田の浜のみんな誰も知らず

ウワサでは、わけあって実家にずっと居るらしい…とその存在が「村伝説化」しており

じゃあ今から真相を確かめに行こうぜ!!と

泥酔した勢いに任せてミッツ君の家に数人で突撃したんですね。

そんな迷惑なヤロー共に突然、押しかけられて玄関先で困惑しながらも対応してくれたお母さんと押し問答を繰り広げておりましたら…

…奥から出てきた!!

10数年ぶりに見るミッツ君!!

そのまま拉致して、俺の実家に連れて行きまして

あらためて乾杯ー♪となったんですが

全然、楽しそうじゃねえ(笑)

そんなミッツ君、俺の湧いた耳に食いついてきまして「格闘技やってるんだっけ?」と聞いてきたので

「ブラジリアン柔術って知ってる?」と尋ねたところ

「中井祐樹先生の?」…と!!

まさか、こんなド田舎の僻地に引きこもってる幼馴染のクチから、世界のユーキ・ナカイの名前が出てくるなんて!!

4歳の頃から知ってる彼とのあいだに何かが芽生えた瞬間でした。

聞くところによるとWOWOWやスカパーなどでUFCはじめ格闘技を観るのが好きだと。なので柔術の世界に対してもかなり理解がある。

ほう、じゃあ俺が実家戻ってきたらブラジリアン柔術やらない?

「興味はある」

よし、やろう!!連絡先交換しよう!!

こりゃあ良い。

いやね。帰郷を見据えて岩手県の格闘技事情を色々と下調べしていたところなんですよ。

高校レス部時代の仲間/横田君が「オーガフィスト」という格闘技サークルをやってること

高校時代の合宿でお世話になった鹿糠先生が久慈で「パラエストラ久慈」(現・アカデミア ラッソーナ)を主催してること

隣町/大槌町には「グラアカ」という格闘技チームが存在すること

ホージャマシャードの仲間/田口君の話から岩手県には「草柔会岩手」というブラジリアン柔術団体が存在すること

そして数年ぶりに恩師/上野先生(元・宮古商業レスリング部監督、山田レスリングクラブ主催)のところに挨拶に行って、近いうちに戻ってくる話もしており

帰郷後も格闘技やレスリングに携われるための地盤は徐々に、かため始めてはいたんですけど

これがブラジリアン柔術となると、広大な岩手を車で右往左往と長旅することになっちゃうかなぁ、なんてアレコレと思ってたところなんですよ。

それが、なんと…!

この狭い田の浜に柔術をやれる相手が居るぞ!!と

もう明日にでも戻ってきても良いや!って感じなんですけど

神様は見逃してはくれませんでした。

「そう簡単に岩手県に帰れると思ってんのか?」

…神様というか

行政ですね。

◼︎四万円が消えた朝《7/7》

「住民税」滞納による「給料差し押さえ処分」

上京してから約10年。一度たりとも払ってなかった。

封筒の窓から透けて見える中身の色がおそらく警告的なアレを表すであろうピンク色になってもビリビリに破って捨て続けた、その天罰が下った。

毎月4万円。

これから8ヶ月間に渡ってコールセンターの給料から天引きされる社会的制裁

詳しくは、このシリーズが始まるよりもっと前に書いた「四万円が消えた朝」という記事をお読み下さい。

我ながら今読み返しても、緊迫感の伝わるスリリングな文章で、税金滞納後に対する社会的制裁の恐ろしさを後世に伝えるには充分な石碑的作品に仕上がってるのではないかと。

是非ご一読ください。

という事で″東京リア充柔術編″もうしばらく続きます。

〜あとがき〜

明らかに更新頻度が落ちている

それを友人のシンガーソングライター・四万十川友美に指摘された。

分かっている、自分でも重々感じている。

しかし、このブログ作成というのは魂を削り取る作業であることに付け加え

読みやすいテキストにするため、単語が行末や行頭でバラけないように句読点や読み方を変えたりして調整しているのだが、これが中々シンドい

「鬼滅の刃」に登場する「ヒノカミ神楽」という大技はそれを使った炭治郎が回復まで数日の睡眠を要するほど消耗するという設定になっているのだが

このブログはまさに俺にとってのヒノカミ神楽だ。

最近では回復するまで一週間かかる。SNSに投稿してから一週間しないとワードが降りて来ない。

そんな俺にさらに追い討ちを掛けるような出来事が…

前記事において、当ブログの最終回を迎えた暁には、まだ読んだことのない「スラムダンク」を読みたい旨を吐露したところ、同じく前記事にて登場して頂いた「2009年のウスおじさん」こと、のちの「2018JBJJFマスター3-5黒帯ランキング1位」であるつしましんご選手よりスラムダンク単行本1〜22巻を贈呈していただいた!

しかも息子達の誕生日プレゼントまで(ていうか毎年ずっと戴いてます。)

あれだけ渇望していたスラムダンクが俺の手元に!

…ブログ最終回なんて待ってられねえ!

しかし欲望の赴くまま貪り読み耽ってしまったら俺はおそらくブログを放置してしまうだろう。

そこで俺はひとつのルールを自分に課す事にした。

当ブログを一話、書き終えたら「2〜3巻くらいなら」読んでも良いルールにする。

というワケでようやく書き終えたので

煉獄さん!行ってくるよ!

世間から30年遅れで、ついにスラムダンクの世界に!

つしまさん!ありがとうございます!

ウスおじさんだなんて言ってゴメンなさい!


つづく

次回「東京でフリーターみたいな生活しながら、ただ柔術だけをやれていたあの頃が幸せだったなんて…なぜ、過ぎ去ってからじゃないと気づけなかったのか」←読めます。

これまでの連載一覧はこちらから

動画協力・受け手/石井大規、撮影/三浦麗

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この記事を書いた人

岡市 尚士

岡市 尚士

ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。

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