川路大樹
UFCで崩れ始めた無敵の幻想
みなさん、こんにちは!
ファイトフィット秋葉原の川路です!
気づけば、最後にUFCの試合についてブログを書いてからもう1年近く経ってしまいました笑
もちろん、その間もUFCは欠かさずチェックしていましたし、個人的に語りたい試合や選手もたくさんいました。
そんな中、最近のUFCを見ていて特に気になっていることがあります。
それは「ダゲスタンファイターたちの最強神話が少しずつ崩れ始めているのではないか?」ということです。
かつてハビブ・ヌルマゴメドフが圧倒的な強さでライト級を支配し、その後もイスラム・マカチェフをはじめとするダゲスタン出身の選手たちがUFCで活躍してきました。
強烈なテイクダウン、金網際でのコントロール、そして相手に何もさせない圧倒的なグラップリング技術。
一度組まれたら最後。倒されたら立てない。
そんな絶望的な強さが彼らの代名詞だったと思います。
僕自身も彼らのレスリングやグラップリング技術には何度も驚かされてきましたし、MMAにおける組み技の重要性を改めて認識させられました。
しかし、最近の試合を見ていると以前ほどの絶対的な強さを感じなくなってきたように思います。
もちろんダゲスタン勢が弱くなったと言いたいわけではありません。
むしろ、世界中のファイターたちが彼らのスタイルを研究し、その強さに追いつき始めているのではないかと感じています。
今回は、そんな変化を感じさせる3つの試合を中心に僕なりの考察を書いていきたいと思います。
ウマル・ヌルマゴメドフ vs ソン・ヤドン
まず取り上げたいのがウマル・ヌルマゴメドフとソン・ヤドンの一戦です。
ウマルは、あのハビブ・ヌルマゴメドフの従兄弟。
ダゲスタン出身の選手らしい高いレスリング技術に加え、蹴り技を中心とした打撃も非常に優れており、個人的にはバンタム級でもトップクラスの完成度を持つ選手だと思っています。
一方のソン・ヤドンは中国出身のファイター。
強烈なパンチと優れたボクシング技術、そしてフィジカルの強さが特徴です。
この試合で僕が注目したいのはウマルのレスリングに対してソン・ヤドンが簡単には支配されなかったことです。
1ラウンドはウマルが得意のレスリングで先制
試合序盤、ウマルはソン・ヤドンの蹴りに合わせてテイクダウンを奪います。
ソン・ヤドンもギロチンチョークを狙いますが、ウマルは首を抜いてトップポジションを確保。
ここまでは、いつものダゲスタン勢らしい展開でした。
しかし、ソン・ヤドンは簡単にはコントロールされません。
脇を差してポジションを作り、立ち上がることに成功します。
そして、スタンドに戻ると再びプレッシャーをかけ、パンチを狙っていきました。
この時点でウマルがテイクダウンを奪っても以前のように一方的なグラウンドコントロールを続けられないことが見えていました。
2ラウンド、衝撃のKO決着
そして迎えた2ラウンド。
ウマルは左ハイキックを見せながらテイクダウンを仕掛けていきます。
しかし、ソン・ヤドンはスプロールでこれを防ぎます。
さらに、ウマルが頭を下げてテイクダウンに入ろうとしたところに、ソン・ヤドンの右アッパーがヒット!
ウマルはそのまま意識を失い、倒れ込んでしまいました。
ソン・ヤドンが追撃の鉄槌を打ち込んだところで、レフェリーが試合をストップ。
まさかのKO決着となりました。
僕がこの試合で特に印象に残ったのは、ウマルが得意とするテイクダウンの動きを、ソン・ヤドンが逆に攻撃のチャンスに変えたことです。
レスリングを得意とする選手は相手にテイクダウンを警戒させることで打撃でも有利な展開を作ることができます。
しかし、それは逆も同じです。
相手がテイクダウンのタイミングを読めるようになれば、そこに打撃を合わせることも可能になります。
今回のソン・ヤドンは、まさにその隙を突いたように見えました。
もちろん、ウマルが一度KO負けしたからといって彼のレスリング技術が通用しなくなったわけではありません。
ただ、どれほど優れたレスリング技術を持っていてもテイクダウンの入り方を読まれれば大きなリスクを背負うことになる。
この試合はそれを改めて示した一戦だったと思います。
イスラム・マカチェフ vs イアン・ギャリー
続いて取り上げたいのがイスラム・マカチェフとイアン・ギャリーの一戦です。
今回のテーマを考えるうえで個人的にはこの試合が非常に重要だと思っています。
なぜなら、マカチェフはダゲスタン勢の中でも特に完成度の高い選手だからです。
ハビブの後継者として注目されながら、レスリングだけでなく打撃技術も進化させ、ライト級王座を獲得。
その後、ウェルター級でも王座を獲得し、二階級制覇を達成しました。
そんなマカチェフですが、今回のギャリー戦では以前のような圧倒的な支配力を見せることができませんでした。
倒しても立ち上がるギャリー
試合序盤、マカチェフは得意のレスリングでギャリーをテイクダウンします。
しかし、ギャリーは簡単にはコントロールされません。
長い手足を生かしながら立ち上がり、金網際でも足をフックさせないように対応していました。
特に印象的だったのは、マカチェフが何度も組み技を仕掛けているにもかかわらずギャリーが簡単にはグラウンドで支配されなかったことです。
もちろん、マカチェフはテイクダウンを奪い、コントロールする場面も作っていました。
しかし、これまでのように一度倒したらそのまま長時間支配し続ける展開には、なかなか持ち込めませんでした。
3ラウンドにはマカチェフのシングルレッグに対してギャリーが足を抜き、逆にバックを取る場面まで見られました。
この攻防は、個人的に非常に興味深かったです。
これまでマカチェフは、相手のテイクダウンディフェンスを崩し、バックを奪う側の選手でした。
しかし、今回の試合では、逆に相手からバックを狙われる場面があったのです。
マカチェフ自身も苦戦を認めた
最終的に試合は判定3-0でマカチェフが勝利。
ウェルター級王座の防衛に成功しました。
ただ、スコアは49-46、49-46、48-47。
判定ではマカチェフが勝利したものの、試合内容は決して一方的なものではありませんでした。
実際、試合後のインタビューでマカチェフ自身も、ギャリーについて「彼は僕をかなり苦しめた」と語っています。
さらに、ギャリーがサブミッションを防いだことについて、柔術の名手デミアン・マイアから指導を受けていたことにも言及していました。
僕は、この発言が非常に興味深いと思いました。
というのもマカチェフ自身が相手のグラップリング対策の進化を認めているように感じたからです。
もちろん、ウェルター級に階級を上げたことで相手のフィジカルが強くなった影響もあるでしょう。
実際、マカチェフもウェルター級の選手はパワーがあり、サブミッションを極めるのが難しいと語っています。
そのため、今回の苦戦を単純にダゲスタンスタイルの衰退と結びつけることはできません。
ただ、それでも僕が感じたのはマカチェフほどの完成度を持つ選手でさえ、相手を一方的に支配することが難しくなってきているということです。
「勝つこと」と「圧倒すること」は違う
ここで僕が強調したいのは勝利することと相手を圧倒することは必ずしも同じではないということです。
もちろん、UFCという世界最高峰の舞台で勝つこと自体が素晴らしいことです。
しかし、これまでダゲスタン勢が特別視されてきた理由は単純に勝率が高かったからではありません。
相手にほとんど何もさせず、一方的に支配する試合内容があったからこそ最強というイメージが生まれたのだと思います。
そのため、たとえ勝利したとしても相手に対抗される場面が増えてくれば、以前のような絶対的な印象は薄れていきます。
僕は、マカチェフとギャリーの試合にもそうした変化を感じました。
ハムザト・チマエフ vs ショーン・ストリックランド
そして、今回のテーマを考えるうえで特に印象的だったのがハムザト・チマエフとショーン・ストリックランドの一戦です。
厳密には、チマエフはダゲスタン出身ではなく、チェチェン出身のファイターです。
ただ、強烈なレスリングを武器に相手を支配するという点では今回のテーマと共通する部分があります。
チマエフといえば圧倒的なフィジカルと爆発的なテイクダウン、そして相手に何もさせないグラウンドコントロールが最大の武器です。
2025年8月のドリカス・デュ・プレシ戦では5ラウンドにわたって相手を支配し、UFCミドル級王座を獲得しました。
あの試合を見て、チマエフのレスリングを攻略するのは相当難しいと感じた人も多かったのではないでしょうか。
しかし、ストリックランドとの試合ではこれまでとは違う展開が見られました。
1ラウンドはいつものチマエフだった
試合開始からわずか20秒。
チマエフはシングルレッグでテイクダウンを奪い、ストリックランドのバックを取ります。
そこから足をフックし、手首をコントロールしながら相手の立ち上がりを封じていきました。
まさに、これまで何度も見てきたチマエフの得意な展開です。
ストリックランドも立ち上がろうとしますが、チマエフはその動きに合わせてポジションを調整し、簡単には逃がしません。
この時点では今回もチマエフが一方的に支配する試合になるのではないかと思わせる内容でした。
しかし、2ラウンドから試合の流れが変わり始めます。
ストリックランドがチマエフをテイクダウン!?
個人的に、この試合で最も衝撃的だったのが2ラウンドです。
チマエフがダブルレッグを仕掛けたところストリックランドはその動きを利用して上のポジションを奪いました。
さらに、その後のテイクダウンも防ぎ、逆にチマエフをグラウンドでコントロールする展開を作ります。
これは非常に大きな出来事だったと思います。
なぜなら、これまでチマエフは相手を倒してコントロールする側の選手だったからです。
もちろん、過去にも苦戦した試合はありました。
しかし、今回のように相手から組み技で明確に対抗され、グラウンドで下になる場面を見ると、チマエフも決して攻略不可能な存在ではないことを改めて感じます。
そして、ここで注目したいのはストリックランドがチマエフのレスリングに対して、ただ逃げるだけの戦い方をしていなかったことです。
テイクダウンを防ぐだけではなく、相手の攻撃を利用して自分が有利なポジションを奪う。
これは、レスリングを得意とする選手への対抗策として、非常に重要な考え方だと思います。
ジャブとフットワークがチマエフを苦しめた
3ラウンド以降、ストリックランドは得意のジャブを中心に試合を組み立てていきます。
チマエフも打撃を返していましたが、徐々に動きが落ち、序盤のような爆発的なテイクダウンを仕掛ける場面が減っていきました。
一方のストリックランドは、左回りのフットワークを使いながらジャブを打ち続けます。
この戦い方が非常に効果的だったと思います。
チマエフのようなレスラーにとって、相手を金網際に追い込むことは非常に重要です。
相手の後退するスペースをなくすことで、テイクダウンやバックコントロールにつなげやすくなるからです。
しかし、ストリックランドは横への動きを使い、簡単には金網を背負いませんでした。
さらに、ジャブを打ち続けることでチマエフが一方的に距離を詰めることも難しくしていました。
僕がこの試合で特に興味深いと感じたのは、ストリックランドが決して派手な技術でチマエフを攻略したわけではないということです。
ジャブを打つ。横に動く。テイクダウンを防ぐ。倒されても立ち上がる。
一つ一つは、MMAの基本ともいえる技術です。
しかし、その基本を5ラウンドにわたって徹底することで、チマエフの強力なレスリングに対抗していました。
最終的に試合は判定2-1でストリックランドが勝利し、ミドル級王座を奪還しました。
有効打もストリックランドが133発、チマエフが98発。
僅差の判定ではありましたが、チマエフのレスリングが必ずしも勝利を保証するものではないと示した試合だったと思います。
3つの試合から見えてきた共通点
ウマル対ソン・ヤドン。
マカチェフ対ギャリー。
そして、チマエフ対ストリックランド。
この3試合を並べてみると、ある共通点が見えてきます。
それは、レスリングを武器とする選手に対して、相手が以前ほど一方的に支配されなくなってきているということです。
もちろん、それぞれの試合内容や対抗策は異なります。
ソン・ヤドンは、テイクダウンを狙うウマルの隙にパンチを合わせ、KO勝利を収めました。
ギャリーは、マカチェフのレスリングに対して粘り強く対応し、何度も立ち上がることで一方的な支配を許しませんでした。
そして、ストリックランドは、チマエフのテイクダウンを防ぐだけでなく、逆にトップポジションを奪い、ジャブとフットワークで試合を組み立てました。
戦い方は違いますが、共通しているのは、相手の得意な展開を理解したうえで、その強みを発揮させない工夫があったことです。
テイクダウンを防ぐ。倒されても立ち上がる。
金網際でコントロールされない。そして、スタンドに戻ったら自分から攻撃する。
こうした攻防を繰り返すことでレスリングを得意とする選手にもプレッシャーを与えることができます。
ダゲスタン勢のレスリングは研究され尽くしたのか?
では、なぜこうした試合が見られるようになったのでしょうか。
僕は世界中のファイターたちがダゲスタンスタイルへの対策を進めてきたことが一つの理由だと思っています。
ハビブがUFCで圧倒的な強さを見せていた頃、多くの選手は彼のレスリングに苦しめられました。
特に金網際での攻防や、相手の足をコントロールして立ち上がりを封じる技術は非常に優れていました。
しかし、これほど強力なスタイルが登場すれば、当然ながら世界中の選手やコーチが研究を始めます。
テイクダウンを防ぐための姿勢。金網際での手の位置。
倒された後の立ち上がり方。相手に組ませないための距離管理。
そうした技術が、以前よりも重要視されるようになったのではないでしょうか。
もちろん、これらの技術自体は昔から存在しています。
ただ、ダゲスタン勢の活躍によって、MMAにおけるレスリング対策の重要性がさらに高まったことは間違いないと思います。
そして、ここで重要なのはレスリングへの対策が進むことと、レスリングそのものが弱くなることは別の話だということです。
優れた技術であっても、相手がその対策を十分に準備していれば、以前ほど簡単には通用しなくなります。
これは格闘技の歴史を振り返っても、何度も繰り返されてきたことです。
そもそも「ダゲスタン出身=最強」というイメージが強すぎた?
もう一つ、個人的に考えていることがあります。
それは、ハビブやマカチェフのような突出した選手の存在によってダゲスタン出身というだけで、その選手を過大評価してしまっていないかということです。
もちろん、ダゲスタンには優れたレスリング文化があり、世界トップクラスの選手を育てる環境があります。
しかし、同じ地域の出身だからといって全員がハビブやマカチェフと同じ実力を持っているわけではありません。
これは当たり前のことですが、格闘技ファンの間では選手個人の能力以上に出身地や所属チームが注目されることがあります。
「ダゲスタン出身だから強い」
「ハビブのチームだから負けない」
そんなイメージが先行してしまうこともあるのではないでしょうか。
僕自身、ウマルは非常に優れた選手だと思っていますし、マカチェフの総合力やチマエフのレスリングも世界最高峰だと思っています。
ただ、それでも彼らは無敵ではありません。
そして、彼らの強みを理解したうえで対抗できる選手も存在します。
もしかすると、崩れ始めているのはダゲスタン勢の強さではなく、僕たちが勝手に作り上げていた「無敵」というイメージなのかもしれません。
それでもレスリングはMMAにおいて最も重要な技術の一つ
ここまで書いてきましたが、僕は決してダゲスタンスタイルを否定したいわけではありません。
むしろ、レスリングは現在のMMAにおいて、最も重要な技術の一つだと思っています。
なぜなら、レスリングが強い選手は試合をどこで戦うかを選択しやすいからです。
スタンドで戦いたければ、相手のテイクダウンを防ぐ。
グラウンドで戦いたければ、自分からテイクダウンを仕掛ける。
こうした選択肢を持てることは、MMAにおいて非常に大きな武器になります。
ただし、レスリングが強いというだけで勝てるほど現在のUFCは甘くありません。
打撃、寝技、スタミナ、距離管理、そして試合中の判断力。
それらを高いレベルで組み合わせることが求められます。
実際、マカチェフが優れているのは単純なレスリング能力だけではありません。
打撃でも相手を脅かすことができ、組み技への警戒を利用してスタンドでも攻撃を当てることができます。
つまり、レスリングを武器にしながらも、それだけに依存していないのです。
今後、ダゲスタン勢が再び圧倒的な強さを見せるとすれば、こうした総合力の高さがさらに重要になるのではないでしょうか。
最後に
今回取り上げた3つの試合を見て、僕が改めて感じたのはMMAには絶対に攻略できないスタイルなど存在しないということです。
もちろん、現時点では圧倒的な強さを誇る選手や、ほかの選手には真似できない技術を持った選手もいます。
しかし、その強さが証明されればされるほど世界中の選手たちが研究し、対抗策を考えます。
そして、いつかその技術を攻略する選手が現れる。
僕はこうした技術の進化こそがMMAの面白さだと思っています。
これは僕たちの普段の練習にも通じる話です。
例えばスパーリングでいつも同じ技を使っていると最初は通用していても次第に相手に対応されるようになります。
そこで「最近、自分の技が通用しなくなった」と落ち込むのではなく、なぜ通用しなくなったのかを考えることが大切です。
相手が成長したのか。
自分の攻撃が単調になっているのか。
それとも技を出すタイミングに問題があるのか。
そうやって考えながら練習することで、さらに強くなれると思います。
そして今回のウマル、マカチェフ、チマエフの試合は、どれほど優れた選手でも進化し続けなければ勝ち続けることは難しいということを改めて教えてくれたように感じます。
ダゲスタン最強神話は本当に終わりを迎えようとしているのか。
それとも彼らがさらに進化し、再び世界を驚かせるのか。
個人的には、今後のダゲスタン勢がどのような戦い方を見せてくれるのかも非常に楽しみです。
今後もUFCの試合を楽しみながら、気になった試合や技術についてブログで紹介していきたいと思います!
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