上念 司
ショーンKさんとガタカとグリコ(格闘技とは関係ない話題でスミマセン)
ショーンK氏の問題について考えていたら、ふと映画『ガタカ』を思い出しました。
ガタカ(1998年、米)
DNA操作で生まれた”適正者”だけが優遇される近未来”不適正者”として自然出産で生まれた若者が適正者に成りすまして宇宙へ旅立とうとするが・・・。
主演: イーサン・ホーク, ユマ・サーマン
(amazonより)
イーサン・ホーク扮するヴィンセントは事故で足が不自由になった元水泳金メダリストで「適正者」のジェロームから血液や指紋などを買い取って成りすまします。最後はネタバレになってしまうので言いませんが、何度かバレそうになるもののその成りすましは機能してしまうって話です。
努力で「適正者」らしく振る舞い、完璧な成果を上げているヴィンセント。見ている人は、そもそもこのDNAを使った差別に意味あるのかって思うことでしょう。何が本物で何が偽物が区別できない、そんな話です。
ショーンKさんの今回の「成りすまし」事件ですが、仮に発覚が2年遅れていたら何が起こっていたでしょう?もし仮に、フジテレビの新番組のキャスターとして高視聴率を叩き出していたらなんて想像してみると面白いですよ。まさか、勝てば官軍?いや、あり得なくもないです。
これまた映画の話ですけど、岩井俊二の『スワロウテイル』に出てきたCHARA扮するグリコという歌手を覚えてますか?本当は上海出身の移民なのに、YEN TOWN BANDのボーカルとして曲がバカ売れし、「日本人」になっちゃうというくだりがありましたよね。グリコの素性を知っている人は巨大音楽産業にとっては脅威となり消されるみたいな展開でしたよね。確か。さすがにショーンさんの過去を知っている人はたくさんいるみたいなんで、「ホラッチョ川上」時代を知っている人が全員消されたりはしないと思いますけど、事後的にプロフィールを修正して丸く収めたかもしれません。
今回の事件のポイントは、フジテレビがショーンさんをメインキャスターに起用しようとしたことです。フジテレビは彼の「力量」を評価しました。テレ朝の報道ステーションがコメンテーターに採用した理由も同じです。フジテレビの中の人は報ステにおけるショーンさんの仕事ぶりを見て、これならイケるって思ったんでしょうね。数字が取れると。
でも、ショーンさんがやっていたことは、おそらく公開情報から少しずつネタをパクってそれをさも「国際的な経営コンサルタント」からの視点であるかのように味付けすることでした。ところが、その味付けがあまりにうまかったんで、並のコメンテーターでは太刀打ちできないほど評価されたわけです。まさにヴィンセントとかグリコみたいなもんですよ。
もし、ショーンさんが自分のプロフィールを偽らずガチでテレビ局に売り込んでいたらどうなったでしょう?おそらく学歴とか経歴フィルタに引っかかって相手にされなかったでしょう。仮にそうだとしたら、ショーンさんのこの類稀なる「才能」もテレビで日の目を見ることはありませんでした。でも、ショーンさんは入口でズルして、潜り込んじゃった。そして、一旦入ってしまえば、あとは実力勝負です。彼は「実力」があったんですよ。そうじゃなきゃでここまでのし上がれなかったわけですから。これは本当にすごいことだと思います。
逆に言えば、学齢も経歴も立派な「専門家」の皆さんのコメントはショーンさんに負けていたということです。もちろん、それはテレビという視聴率を取るゲーム上での話ですけど、それでも負けていたことは事実なんです。言い方は良くないですけど、高卒の経歴詐称の嘘つき以下のつまんないコメントしかできないクズだったってことですよ。これは痛いですね。入口では合格レベルの学歴と経歴で持っていても、実際仕事やらせてみたら結局何にも役に立たなかったわけですから。
テレビ局は陸軍大学、海軍大学を卒業したエリートに実際戦争やらせてみたら恐ろしく下手くそだったみたいな悲劇を繰り返すんですかね?ショーンさんの学歴詐称はズルですけど、実力もないのに学歴、経歴だけで権限ある地位に居座ることだって同じぐらいズルだと思います。ガチで評価してクビになるべきです。でも、大本営の高学歴集団は身内に甘くそれができなかった。それで戦争負けました。ショーンさんは期せずしてそれに気づかせてくれましたね。偶然ですけど。
今回の事件で一番ダメージを受けたのは「査読能力」が欠如したテレビ局、特に社運をかけて大コケしたフジテレビです。あとは、報ステでショーンさんを重用してたテレ朝ですかね。そして、テレビのコメンテーターという職業自体も大きな疑問符のつくうさん臭いものになってしまいました。まぁ元からそうだったという話もありますし、私もやってるんで人ごとじゃないですけどw
でも、コメンテーターの言ってることをそれを鵜呑みにして「視聴率」というご褒美を与えていた視聴者にも返り血が飛び散りました。いつものことですが、、、。
以前、『日本の危機管理はここが甘い(光文社新書)』という本に書きましたけど、「偉い人が言っている、頭のいい人が言っている、みんなが言っている」というのはプロパガンダの基本です。人は、それが論理的に正しいかどうかじゃなくて、おそらくあの人なら間違えないだろうという人、信頼している人がい言ってることを信じてしまうんです。そういう意味で、ショーンさんが作り上げた「信頼」は絶大なものがあったんですよ。でも、偽の経歴でもそれが作れた。結局信頼って何なの?って話になりませんか?
信頼している人が言うから正しいんじゃなくて、正しいこと言ってるから正しい。
その人が誰であるかじゃなくて、その人が何を言うか、で判断しないと、、、
これってすごーく難しいことなんですけど、気が付いたらいつも検証しないと今回みたいなことは何度も起こると思います。
さて、最後にショーンさんにメッセージです。
ショーンさんにおかれましては、ぜひ開き直って「高卒、経歴詐称でここまでのし上がったオレだから言える、人生大逆転の秘密!」みたいな本を書いてほしいです。
現代のガタカ、リアルグリコとして自己啓発のセミナーやってもいいと思いますよ。案外人気出る気がします。もしやるなら本当に応援したいですね。
経済評論家 上念司
この記事を書いた人
上念 司
経済評論家 著作:『経済ニュースのウソを見抜け http://a.r10.to/hpY7cY 』 『売国経済論の正体(徳間書店)』『日本は破産しない! (宝島社)』 『「日銀貴族」が国を滅ぼす(光文社新書)』『デフレと円高の何が「悪」か(光文社新書)』 他
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