岡市 尚士
2011年1月と2月の日記 〜定置網漁とブラジリアン柔術〜「プロレス好きのバンドマンが柔術黒帯になるまで/第145話」
2011年が始まった。(前記事はこちらから)
練習始めは、たしか1月2日
鹿糠先生と桝森君からメールがきてパラエストラ久慈さん(現・アカデミアラッソーナ)のオープンマットにお邪魔した。
車で二時間以上。久慈に近づくにつれて現れたのは、除雪車によって道沿いに出来た巨大な雪壁
今冬は積雪がすごい。同じ岩手県でも雪がすごいのは内陸だけで、久慈や山田などの沿岸地域に12月1月のうちからこんなに雪が積もることは滅多にない。
到着するとMMA組とグラップリング組の半分に分かれて練習していた。
MMA組の中に久慈出身のプロ格闘家・扇久保博正選手がいた。全く絡めなかったが正月早々、帰省中のプロ選手の練習を見れてラッキーな気分だった。
その練習帰り。山田の同級生達から、これから宮古で飲むと連絡がきたので合流した。
泥酔してよく覚えていないが最後に行ったキャバクラでソファに立ち、もんたよしのりのダンシングオールナイトとX JAPANの紅を歌った事だけは覚えている。
さすがにパンツは脱いでいなかったはずと願いたいが俺のこういう同級生の前では陽キャラ全開なところにパワハラ糞先輩達はきっとイラっとするんだろう。
そんな正月休みから始まった2011年
今回は1月と2月のアレコレを日記風にお伝えしたい。
1月某日/帰ってきた田口君
代々木フォレスト柔術クラブ時代の練習仲間・田口君が大学の冬休みで盛岡に帰ってきた。
無論、その期間は草柔会岩手の練習→飲み会にも参加することは必然の流れなのだが
彼には、ある特殊な能力が備わっている。
田口君の下品さには芸術性がある。
いや内容こそ、そこらへんの野郎連中なんかよりも、よっぽどとんでもないことを発言してたりするのだがなぜか川辺に捨てられたグニャグニャのエロ本のようにはならない。
たとえるならエロ本なんかよりもよっぽど過激なのに芸術作品として世間から評価の高い団鬼六先生の作品みたいな感じである。
「センスがある」ってこういう事を言うのだろう
10年前の(左から)俺、タイキ、田口君
そんな田口君が滞在する1月は楽しくなりそうだ。
1月下旬/休漁
世間ではほとんど知られていないが定置網漁というのは資源管理のため農林水産省が定めた漁業法により
二ヶ月前後の「休漁」を自主的に取り入れる決まりとなっているらしい。
休漁の時期は日本各地で地域によって異なるのだが、こちら山田・宮古・釜石あたりの沿岸地区は1月末には休漁に入り、4月から漁を再開する。
そのため基本「年間契約」となり、雇用期間は1月末までと定められている。
2月以降は自由。そのまま辞めるも個人の自由。
しかし、ほとんどの漁師達は再び4月から、それまでと同じ船と雇用契約を結ぶ。俺もそうする予定。
そのため2月と3月の間は「失業保険」をもらいながらまるまる二ヶ月、休むというスタイルになる。
ていうか、失業保険だけで暮らせって?!
全然遊べねえじゃん!キャバクラのソファーに立ってダンシングオールナイト歌えねえじゃん、と大体の方は思うでしょうが
なんと、ありがたいことに1月給料のほか
「切り上げ金」というボーナスのようなものを、まだ一年目なのにこんなにもらって良いのかよ!
ってくらいの大金を手にした。
これは今年度それなりに魚が獲れたからこそである。
しかし勘違いしてならないのは、これは決して我々の頑張りのおかげではない。
海のお恵みのおかげだ。
定置網漁というのは「待つ」スタイルの漁法
一本釣りその他「獲りに行く」漁法スタイルと違って人間の頑張りはそれほど影響しない。
海の生態系のコンディションが悪ければ魚達は入ってきてくれないだろう。
もちろん不漁であれば、こんな大金は貰えない。
海に感謝するしかない。
そう思ったら、海から恵んでいただいた大切なお金をダンシングオールナイトを歌ってキャバクラにリリースするのが、なんだか勿体ないような気がしてきた。
よし、このお金で
4月の漁再開後、役に立つような資格を取ろう。
1月下旬/定置網漁とブラジリアン柔術
この定置網漁で俺が得たものは大金だけではない
ブラジリアン柔術にも大いに役立った。
それは草柔会岩手での練習中。毎朝、網を引き揚げている要領で、上下逆さまではあるが、こちらが仰向けで相手の袖を引っ張っていたら、それが柔術の闘い方に有効だということを発見した。
この体制には「クロスグリップガード」という立派な名前がついているらしい。
しかし、その名を知るのは数年先
なんと茶帯の途中まで知らなかった(笑)
そんな何ていう名前かも分からないけど、俺にすごく合ってるこの体制が、以降メインガードになった。
格闘技を知らない方に雑に説明すると、仰向け状態の私は、脚をどかされて押さえ込まれると不利なのだが
相手がそれをやるためには、私のズボンを掴まないとほぼほぼ成功しない。
そして、ほとんどの人が仰向けの私の視点から見て「右側」に回ってこようとする不思議な現象がある事に気付いた。
そのために私の右脚を掴もうとしてくる「左手」を、その対角線である私の左手で、網を引き揚げる要領で下から引っ張ると、私のズボンは触れられない。
よって相手はミスを起こしやすくなり。それまで得意としていたクローズドガードに入りやすい。
もしクローズドに入れなかったとしても、ズボンには触れられてないので有利であることには変わりない
いつかはクローズドガードに入れる。
もし真剣に「クロスグリップガード」を習得したいのであれば、会社勤めで週7で人間を相手に打ち込みをするよりも
週1〜2の練習でも良いから定置網漁師になって、人の何倍強いか想像がつかないくらい強い海を相手にした方が、手っ取り早く強くなれると本気で思う。
また定置網漁師が柔術をやった場合、ほとんどの漁師がクロスグリップガードの名手になるだろう。
1月30日/福島県郡山市「ザ・ハンティング・マスターVOL.2」
休漁初日である1月30日
草柔会岩手代表の阿部さんが福島県郡山市内のライブハウスにて行われる「ザ・ハンティング・マスター VOL.2」という柔術興行に出場したのだが行き帰りの車中含め、山田さんと俺とで同行させてもらった。
やや緊張気味の阿部さんとは対照的に、俺は浮かれていた。なんせ大金と自由を手に入れた初日である。
そのため「景気付けだから」と勝手にギターを持参し車内でわっかめん時代の曲や、これまた勝手に作った「草柔会岩手のテーマ」という曲を後部座席で歌いながら郡山市へ向かった。
ていうか運転しろよ。って話である。
会場には東北の格闘家がたくさん居たが、もちろん俺は誰も知らない。もしかしたら今知り合いの人も何人かここに居たかもしれない。
草柔会本部の岩渕先生に初めて御挨拶させて頂いた。
2月某日/強くなってきたミッツくん
山田レスリング道場で柔術を教えていた、引きこもりの格闘技オタクである田の浜の同級生・ミッツくんが強くなってきた。
元々、引きこもりの割には強い体幹の持ち主ではあったが柔術らしい闘い方が出来るようになってきた。
そろそろ草柔会岩手に連れて行こうかなと思う。
2月11日/大原水かけ祭り
阿部さんが住んでいる一関市大東町で、毎年2月11日に開催される「大原水かけ祭り」という伝統行事に
阿部さんと片山さんと三人で出た。
祭の内容は、短パン一丁にサラシを巻いた半裸姿で、沿道の観衆から冷水をぶっかけられながら500メートルの大原商店街を五区間に分けて駆け抜けるという、いたってシンプルなもの
当たり前だが寒い。
500メートル一気に駆け抜けられればラクなのだが100メートルおきに一旦ストップさせられて、次のスタートまでしばらく待たなければならない。
ちょうど今くらいの寒い時期。裸で冷水を浴びて、外にしばらく居てもらえれば、一般家庭でもこの寒さが簡単に分かると思うのでぜひ試して欲しい。
2月中旬/フォークリフト免許取得
4月からの漁再開後のために
同じ船&消防の先輩ケンさん、別の船で定置網漁師をしている田の浜の後輩モモトシ(宮商→日体大レスリング部OB)、漁協組合職員のジョウジ(宮商レスリング部OB、GRAACAさんの会員)と、俺の四人で
フォークリフトの免許を取りに大船渡に数日通った。
同級生のヒデからは「なんで小型船舶じゃなくてフォークリフトなの??」とツッコまれたが
本当その通りなのである。
小型船舶免許の方が圧倒的に仕事に役に立つ。
ハッキリ言って定置網漁の仕事で、フォークリフトの出番なんかそんなにない。
しかし受講料がフォークリフトの方が安かった。
正直に言うと金を残しておきたかった。
でも何か資格は欲しいな。ケンさん達も受けるっていうから、じゃあフォークリフトで良いか程度である。
では、なぜ金を残しておきたかったのかというと
この休み中、東京に遊びに行きたいからである。
2月下旬/東京へ行こう
というわけで金が続く限り
代々木フォレスト柔術クラブ、トイカツ道場、元同僚頑固プロレスのみなさんに会いに
東京に行ってまいります。
つづく
次回「東京格闘技修行と2011年3月9日の大地震」←読めます。
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この記事を書いた人
岡市 尚士
ブラジリアン柔術黒帯。第17回茶帯全日本ブラジリアン選手権大会優勝。茶帯全日本マスターズ選手権優勝、茶帯全日本ライトフェザー級2位、JBJJF全日本マスターズ選手権マスター1紫帯ライトフェザー級優勝、全日本コンバットレスリング選手権大会/58キロ級3位、レスリング岩手県高総体/52キロ級準優勝、レスリング岩手県民体/56キロ級準優勝、レスリングジュニアオリンピックカップ/48キロ級3位と多彩な実績を持つ。
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